オマケ   卒業式にて








3年間の出来事が走馬灯のように回る、

なんてほど感傷的になっているワケでもなかった。 少なくとも式の間は。

けどむしろその後、特にチームメイトたちが吸い寄せられるように集まってきて
お互いに今後のことを確認したり、明るい調子で何だかんだ話している時のほうが
じわじわと胸に迫る何かを、感じた。

いろいろなことがあったけど。

素晴らしい仲間だった。   充実した3年間だったと思う。

しんみりしていたら元気な声が振ってきた。

「あっというまだったな!」
「・・・・・・・・ほんとだなあ」

良くも悪くも一番意識して、オレにとって存在の大きかったやつ。

と感慨深く その顔を改めて見ていると田島は破顔した、かと思うと
ひょいっと斜め方向に顔を向けながら言った。

「あいつらとも、今日から別の道だな?」

視線の先には阿部と三橋がいた。
2人とも平穏な様子で何か話している。
頷いたら、田島はいたずらっ子のような顔になってまた笑った。

「あいつら見てるの、楽しかったなー」

思わずオレも笑ってしまった。  いかにも田島らしい。
オレの笑いはどっちかというと 「苦笑」 だったけど。  

「オレは お疲れさん、 と言っとくよ」

反対方向から穏やかな声が聞こえた。  もちろん栄口だ。

「花井はいろいろ頑張ったよね。 あの2人のことで」
「あー、 まーな・・・・・・」

本当にいろいろあった。  ハラハラすることも多い2人だった。
すれ違いも多かったし、特別な関係になった最初の頃は同性故の困難を思って
貫けるのか、と疑問を感じたのも否定できない。
大問題を勃発させて野球部を窮地に落とすような事態になるんじゃないかと
全然不安にならなかったかといえば、それも嘘になる。


(でも・・・・・・・)

いつも一生懸命だった。 2人ともに真っ直ぐな気持ちでお互いを大事にしていた。
そして最後まで、貫いた。
結果的に大きなトラブルを起こすこともなく、野球への支障がほとんどなかったのは。

「・・・・・・・・大したもんだ」

無意識につぶやいていた。
田島と栄口とで改めて顔を見合わせて、何となく笑ってしまう。
2人の仲を確実に知っていたメンバーという意味では
妙な連帯意識を、特に栄口に対して持っていた。
ある意味誰よりもオレの陰の苦労をわかってくれていたんじゃないだろうか。

でも、どういうわけかオレが一番たくさんフォローする羽目になったのは、
阿部と同じクラスだったからとか、くっ付く前から気付いていたからだけではなく、
何だかんだ言っても結局。

(阿部が好きだったんだなーオレは・・・・・・)

もちろん変な意味じゃなく人間として。
困ったことも多かったけど、部のことでは何かと助けてもらったし、頼りになった。
三橋のことについてはとにかく一途で、そのくせどうしようもなく不器用で、
そういうところも実は結構好きだった。
本当にいろいろ、本人も知らないのを含めると山ほどフォローした気がする。

それらからも、これで卒業というのは嬉しい反面何だか。

「・・・・・・寂しいんじゃない? 花井」
「・・・・・・・・・・・。」

栄口の言葉には、曖昧に笑っただけに留めておいた。  図星だったけど。

正直大変だった。  田島みたいに 「楽しかった」 とは素直には言えない。 
けど2人を見ていると、時に温かいようなくすぐったいような
いい意味で形容し難い気持ちに、しばしばなったのも確かだ。

壊れないで欲しかった。  

だからこそ。

振り回されているようなフリをして、その実自分の意思で
フォロー役になっていたのかもしれない。
でもそれも今日で終わる。
あの2人なら誰の助けがなくても、お互いの努力でいつまでだって頑張れる気がする。

なんて、一抹の寂しさをどこかで感じながら、でもやっぱり
ホっとするような複雑な心地で考えた。





その後も皆離れ難かったのか、ぐずぐずと誰も帰らなくて
結局田島の提案で場所移動してメシでも食ってこうという流れになった。
連れ立ってぞろぞろと歩いていると隣に誰か並んだ、 ので見たら阿部だった。
いっしょにいたはずの三橋は、いつのまにか前のほうで田島と何やら笑いながら話している。

「ありがとな、 花井」
「えっ・・・・・・・」

藪から棒に御礼を言われて面食らった。 阿部の顔も声音も至極真面目だった。

「おまえには本当に世話になった」
「・・・・・・・・・・。」

軽く返そうと思ったのに、不覚にもじんとしてしまって言葉にならなかった。

「感謝してるよマジで」
「・・・・・・・うん」

ほのぼのと、温かい気分になった。
頑張れよ、 と言おうと口を開いたところで、阿部が切り換えたような明るい口調で言った。

「今日で晴れて卒業だしさ!」
「うん」
「実はできれば1人暮らししてーななんて思ってて」
「え?」
「まだ考えている段階で、実現するとかのメドも立ってねーんだけど」
「あー、でもいいんじゃね?」

オレも切り換えて、同意した。
オレだって条件が揃えば独立したい。 阿部の気持ちはよくわかる。

「物件探してたらいいのがあったんだ。 2DKだけど安いんだ」

2DK?  と疑問に思ったけど、口には出さなかった。
1人暮らしで2DKは広いんじゃ、 なんてことも思っただけで言わない。
頑張れなんて激励するまでもなく、頑張る気満々らしい阿部に苦笑が漏れかけた、ところで。

「それがさ、花井の家にすげー近いんだこれが」
「へ?!」

マヌケな声が出た。 平然と阿部は続けた。

「あ、でもまだわかんねーんだけど。 未定だけど。」

爽やかに笑いながら、阿部はオレを見た。


「てことで、これからもよろしくな! 花井!」














                                                 了

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                                                       くされ縁希望。