手のひらへの





今日はクリスマスイブだ。
でももちろんそれで練習が休みになるわけもなく。
終業式の後いつものように夕方まで部活があって、皆でわいわいといっしょに帰る。

クリスマスなのにな、と思わないでもないけど。

だって普通はイブってったら恋人どうしの一大イベント?らしいじゃん。
でもなぁ。
オレらにそういうのって何だか似合わない・・・・・つーか
照れくさい・・・・・つーか、
とにかく何の約束もしてないし特別なことは何も考えてなかった。

集団でだらだらと歩いてたら三橋が 「あ」 とつぶやいて立ち止まった。
「なに?」  とすかさず聞いたのは田島だ。
「・・・わ・・・忘れ物・・・・・した・・・・・」

なにやってんだよ。

「オレ取ってくる・・・。 みんなは帰って・・・ね・・・。」

言いながら三橋は皆にバイバイと手を振った。

「いっしょに行ってやるよ。」

思わず言ってしまってから 「あ」 と内心で慌てたけど。
田島とか花井のやれやれという視線が痛いけど、まぁいいやどうでも。

そんなわけで、オレと三橋は皆とそこで別れて部室に戻った。







○○○○○○○

2人で改めて帰路につく頃にはもう日はすっかり落ちていた。

暗い道を黙って並んで歩きながら、オレは何だかしみじみした気分になった。
何て言っていいかよくわからないけど
こういう何気ない時間がすごく愛しい。 大事だと感じる。
クリスマスだからって特別なことは何もしないけど。
特別なことも言ってやれないけど。

でもすごく。
すごく三橋が大事だと思う。
こういうの、上手く伝えられるといいのにな・・・・・・。


「あ・・・・雪・・・だ・・・・。」

三橋の声に 「え」 と顔を上げると夜空に白いものがちらちらと舞い始めていた。
どうりで寒いはずだ。
ホワイトクリスマスだな・・・・・・・・。

三橋を見ると両手に はーっと息をかけている。
頬も赤くて寒そうだ。

「手袋は? 忘れたのか?」
「うん・・・・・・。」

三橋のむき出しの手が痛々しく見えて温めてやりたくなった。  強烈に。

オレが急に立ち止まったもんだから三橋も訝しげな表情で足を止めた。

考えるより先に手が伸びて三橋の両手を自分の両手で包んだ。
想いを込めて。

守ってやりたい、 オレの投手。

それからその手のひらにそっと唇を落とした。

祈りにも似た気持ちを持って。

絶対誰にも渡さない。

と、心の中だけでつぶやいた。

三橋はきっと今真っ赤になって困っているんだろうな・・・・・・

そう思ったけどしばらくじっとそうしていた。






来年のクリスマスも。

こうしていっしょにいられるといいな。  同じ気持ちで。



また心の中だけで強く願った。













                                                手のひらへの  了

                                                   SSTOPへ






                                           手のひらへのキスは懇願のキス。
                                                                         
拍手のお礼に超省略バージョンを付けていたけど
                                                                         不完全燃焼だったので書き直しました。