対抗意識





「廉!!」

名前を呼ばれた。
びっくりして三橋が振り返ると叶が走ってくるのが見えた。

「・・・・・修ちゃん。」

叶が懐かしい呼び方をしたのでつられて三橋も返す。
そう呼ぶのは久しぶりだ。 呼ばれるのも。
中学に入ってからは名前で呼んでなかったな・・・・・・と三橋は考える。





その日は部活の後で阿部が三橋の家に来ることになっていた。

練習を終えて他の皆とも分かれて
思い切り体を動かしたあとの気だるい心地よさを感じながら
2人でのんびりと連れ立って家に向かっていた途中だった。


叶は隣にいる阿部をちらりと見て軽く頭を下げるとすぐに三橋に向かって言った。

「ちょうど今から行こうとしてたんだ。」
「え?」
「用事で近くまで来たから」
「そう、なんだ・・・・・・・・」
「最近全然遊んでないじゃん。 急に会いたくなって。」
「あ・・・・・うん・・・・・・・。」

三橋は横目で阿部を盗み見た。 普通の顔をしている。

(いいのかな・・・・・・。)

本音を言えば今日は阿部と2人で過ごしたかった。
ずっと何だかんだと忙しくて2人きりでゆっくり過ごす時間が持てないでいたからだ。
でもせっかく来てくれようとしていた叶に悪いし、叶とは久々なのも確かだ。
三橋は困った。
でもそんな三橋の困惑に頓着なく叶は当然のように 「早く行こう?」 と促した。

曖昧な雰囲気のまま叶も連れ立って歩き出そうとした瞬間。

「悪いんだけどさ。」

唐突に阿部が言った。

「今日はオレがこいつと約束してたんだよね。」

叶はあからさまに不機嫌な顔になった。

「そうなの? 廉」

あくまでも三橋に問う。

三橋はおろおろしながらも 「えっと・・・・・うん・・・・実は・・・・・・」 とごにょごにょと答えた。
どうしようと思いつつも自分でもどうしたいのかわからなくなってきた。
というか、阿部が。
一見普通に見えるけど心なしか目が怒っているようで
それだけで三橋は自分の気持ちなどどうでもよくなってしまう。
阿部を怒らせるのはイヤなのだ。
三橋は妙に頑固な面もあるけど(主に野球において)
それ以外のことでは特に強固な希望がない限り阿部さえよければ何でもいいというのが本音だった。

目の据わった阿部とおろおろモードに突入した三橋を交互に見て
叶はしぶしぶ諦めた。
そして
「わかった。 いきなりだったもんな。 今度また連絡するよ。」  と言って
にっこり笑って手を振った。
















○○○○○○

ごめんね修ちゃん、 と思ったけどやっぱりホッとした。

阿部くんはどう思っているのかよくわからないけど
今日は朝から楽しみにしてたんだ。
まだ少し明るいから、練習にも付き合ってもらえるかもしれない、
なんてこともうきうきと考えた。




なのに。

家に着いて部屋に入るなり座る間もなく押し倒されてしまった。

そりゃ今日は親が遅いのはあらかじめわかっていたから
ちょっとそういうことも、あるかな、くらいは思ってたけど。 そんないきなり。 こ、心の準備が。

なんて慌てているうちに阿部くんのせいで僅かな抵抗もむなしく
あっという間に体の準備はできてしまった。
おまけにいつもより激しくされてしまってもう途中から何がなんだかわからなくなって
恥ずかしいとか照れくさいとかそういうのもみんなどっかに行っちゃって
ひたすら阿部くんの体の重みとか熱さとかしか感じられなくて頭が真っ白になっているときに唐突に耳元で






「廉」






て掠れた声で呼ばれた。






ぞくっ とした。




その瞬間オレはイっちゃった。


すごく、 恥ずかしかった。





同じ名前で呼ばれるのでも叶くんと阿部くんでは全然違う。
実は阿部くんの声すごく好きなんだ。   言ったことないけど。

というか場合が全然違うからか。


終わってから阿部くんはまた普通の顔をしていたけど、目がさっきよりずっと優しくなってた。
優しいというのとも違う、  満足? してる、ような目。

(すっきりしたから・・・・・かな・・・・・・・・)

なんてことを考えながら ぼーっと阿部くんの顔を見ていたら、いきなり言われた。

「叶ってさ。」
「え?」
「・・・・・おまえのこと、ナマエで呼ぶのな。」
「・・・・あ・・・・・」
「前試合したときは苗字じゃなかったっけ。」
「・・・あ・・・・中学入ってからは・・・・苗字になった、かな・・・・・」
「・・・ふぅん」
「・・・・・?」
「じゃあその前は 『レン』 って呼んでたのか?」
「うん・・・。 小さいときは・・・・」
「・・・ふぅん。 仲良かったんだな」
「・・・う・・ん」
「・・・・今も?」
「え?」
「・・・・・・や、何でもねぇ。」
「???」

それきり阿部くんは黙ってしまった。  別に怒っているわけじゃなさそうだけど。

(・・・・・????)




もしかして。

まさかとは思うけど叶くんが名前で呼んだのを、

(気にしてた・・・・・とか・・・・)



まさか、そんなことはあるワケ、 ないか。














                                                         対抗意識 了

                                                         SSTOPへ








                                                          三橋激ニブ。