オマケ






「聞いてる?」


何度目かの同じことを阿部が言った。
もちろん聞いてる。 ちゃんと聞いてるって。

だから三橋が勝手に化粧されたことがあって、面白くなかったんだけど、
すごい似合っててやっぱりかわいいなと思ったとか、
三橋がなかなか 「恋人」 の自信持ってくれなくて遠慮勝ちな期間がえらい長くて切なかったとか、
たまに嫉妬してくれると飛び上がるほど嬉しいとか、
無自覚にすごいことを言う時があって焦るとか、
ちゃーんと全部聞いてるって。

たださ、我ながらちょっと目が空ろになっちゃってるような気はすんだけど、
それくらいは勘弁してくんないかな・・・・・・・・・・

なんて心の中だけでぼやいている間にも話は進んでいる。

「そんでさ、何であんなに華奢なのかなって思わねぇ?」

あ、疑問形だ。 答えなきゃ・・・・・・・・・・・

「そうだな確かに。」
「あんだけ毎日練習してんのにさ」
「うん・・・・・・」
「それによく食ってんのに」
「不思議だな」
「まぁ筋肉はちゃんと付いてっけど」
「あ、そう・・・・・・・・・・」
「それにあの細い腰がたまんねーってのはオレもあるんだけどさ」
「・・・・・・・・・あ、そ・・・・・・」

話が変な方向に。
ふと、 水をさしてやりたくなった。
意地悪かな。  でもこれくらいは許されると思うんだよな・・・・・・・

「阿部さ、でもオレらまだまだ成長途中だろ?」
「あー、まぁな」
「三橋だって筋トレとかやってんだし」
「うん」
「この後ぐんぐん育って、おまえよりでかくなって筋肉むきむきになったらどーすんの?」
「え、別に?」

即答だった。
一瞬の逡巡もなかった。 見事なくらい。

「・・・・ふーん」
「なんか想像できねーけど、そうなったって別に変わんないと思うケド」
「ふーん・・・・・」
「オレよりでかくなってもオレがやるほうがいいな・・・・・」
「ぶっ」

あ、やっぱ阿部がそっちなんだ・・・・・・・・・・
そうじゃないかとは思ってたけどさ。  てか。
もしかしてオレ、墓穴掘っちゃった・・・・・?

ぐったりしながらも前向きな発想をしてみた。
どうせ下半身の話が出てきたんだから、開き直ってついでにクギを刺しとこう・・・・・・・・

「あのさ、部室ですんなよ?」
「してねーよ」
「本当に?」
「しねーよ。 あいつ嫌がるし」
「そっか」

あぁ良かった・・・・・・・・・・
三橋が普通の神経の持ち主で。 ある意味だけど。

「せいぜい触るくらい」
「ぶっ」

やっぱそれくらいはしてんだ・・・・・・・

「でも家って、どうしても誰かいること多くてさ」
「そうだろうな」
「誰もいない時を待ってるとあんまできねーから最近はいても」
「えっ」
「なに?」
「やっちゃうのか?」
「うんまあ」
「・・・・・危険じゃないか・・・・?」
「あー、でも最初から泊まるって言ってあれば、夜中に部屋でこっそり」
「えー・・・・・・」
「変?」
「・・・・変じゃないけど・・・・・もしバレたら」
「オレはその時はその時って思ってっけど」
「あ・・・・・・そう・・・・」
「でも三橋は確かに嫌がりそうだから」
「だろうな・・・・」
「最近オレの部屋のドアに鍵付けたんだ」
「・・・・・・・ふーん・・・・・」
「そんで三橋の部屋のドアにも鍵付けに行った」
「げっ」

そこまでやったのか・・・・・・・・・
てかいつのまにか何でこんな内容に。
できれば別の方向に、もっと無難なほうに、もうかわいいでもきれいでも何でもいいから
そっちにいって欲し・・・・・・・

「壁に防音工事とかもホントはしてーんだけど」
「げほげほげほ!!!!」
「大丈夫か? 花井」

だ、大丈夫じゃねーよ!!

盛大にむせながらちらりと時計を見た。


あぁ・・・・・・・・・・あと35分もある・・・・・・・・・・・・・・









                                                  了

                                               SSTOPへ







                                                   しかも延長されたり。