それぞれの事情





時間をかけて丁寧にほぐしてやる。

そうすると柔らかくなってきて、おまけにちゃんと濡れてくる。
それでもいれる瞬間はやっぱり少し苦しそうな顔をする。
でもゆっくり奥まで進むといつも微かに切なげな声を漏らすんだ。

その声を聞くのがオレはとても、 好きなんだ・・・・・・・・・・・・・・・







○○○○○○

「なぁ、三橋ってどう?」

唐突に聞かれたときオレは一人で部室にいて他校の資料を検討していた。
そこに田島が入ってきていきなり質問されたわけだな。

「は?」   
どうって、何が。
「だからさ、三橋を抱くのってどんな感じ?」

ばさり。

オレは持っていた資料を派手に落としてしまった。
まさかこいつ。  三橋のこと。
何しろ田島には前科があるし。
オレの顔が多分ものすごく剣呑になったんだろう、田島は慌てたように言葉を続けた。

「あ、誤解すんなよ。 オトコを抱くのってどんなかなと思って。」
「・・・・・・・・。」
「いい?」

はあ・・・・・・・・。  何でそんなことを・・・・・・・・・。

そんな思い切りプライベートなことに答えてやる義理はねぇ!  と思ったけど
ちょっとだけ自慢したい気もして一言だけ言ってやる。

「・・・・いいぜ。 すっげぇ。」
「へえ・・・・・・・・・・・」

田島の顔が興味津々という感じで輝いた。  ヤな予感がした。

「なぁ、でも最初は死ぬほど痛いってホント?
 ヨくなるまでどんくらいかかった?
 いれるのって大変じゃねえ?  準備とかいるの?
 三橋イヤがらなかった?  ナマで出すと腹壊すって本当?
 最初どうやって役割決めたんだ?」

弾丸のように質問が次々と飛び出してきやがった。

「さぁな。」
「え〜! いいじゃん教えてくれたって」
「ヤだね。」
「ケチ!!!」

ケチで結構。 誰が教えるかよ。

というか・・・・・・・・・何でこいつそんなこと聞くんだ・・・・・・・・・・・?

と思ったけど敢えて突っ込まなかった。 オレには関係ねえもんな。






○○○○○○○

「阿部さ、ちょっと聞いていいか?」

花井がそう話しかけてきた時、オレは部室の外のベンチに座ってミットの手入れをしていた。
練習が終わって皆がぼちぼちと帰り始める時間。

「なに?」
「あのさ・・・・・・・・」

曖昧な顔で言いよどんだ。

「・・・・・・・? 何だよ。」
「・・・・オトコとすんのって大変じゃねえ? いろいろと。」

ぼとり。

また落としちゃった。
だーかーら そういうことをいきなり聞いてくんじゃねーよ!!! びっくりすんだろが!!
といってもこないだは田島か。
何だってんだこいつら。

呆れながら冷たい目で(多分) 黙ってたら花井は諦めるかと思いきや、食い下がってきた。

「どうなんだよ。」

仕方なくまた一言だけ答えてやることにする。 同じ部のよしみだ。

「大変だよ。 いろいろと。」
「ふぅん・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「でもさ、いいんだ?」

ま、また・・・・・・・・・・・・・・    そういうこと聞くなっつーの!!

「教えてやんねー」
「え、 そう言わずに」

っせーな。 どいつもこいつも恥ずかしいこと聞きやがって!!!!

「おまえらな。 何だよ一体」
「は? 『おまえら?』」
「こないだ田島が同じこと聞いてきたぜ。」
「!!!」

花井は少し驚いた顔をして黙り込んだ。 それから
「邪魔したな。」  と言ってそそくさと行ってしまった。  何だかなぁ。







○○○○○○

その日の昼休みは屋上で珍しく三橋と2人だった。
滅多にないことで何となく嬉しい。
別に甘い会話とかするわけじゃないけど。
でもやっぱり微妙に空気が違うような気がする。

その時ふと思いついて、本当に何気なく三橋に聞いてみた。

「おまえさ、田島に何か変なこと聞かれなかった?」

途端に三橋の顔がみるみる赤くなった。  えっ?  と驚いた。

「・・・ちょっとだけ・・・・・・・。」

マジで聞かれたのか?!!

「何て聞かれた?」

もっと赤くなった。   てことは。
三橋が答えないんで代わりに言ってやった。

「されんの気持ちイイ? とか聞かれた? もしかして」

三橋は黙って頷いた。 やっぱり・・・・・・・・・。

「・・・・花井くんにも・・・・・。」

三橋は続けて小さな声で言った。
オレは盛大にため息をついた。  あいつら・・・・・・・・。

「ったく。 しょーがねぇな、あいつらも」
「あの・・・・・・喧嘩してたよ・・・この前・・・・・・」
「喧嘩?」
「うん・・・・2人して 『譲らないからな』 って言ってた・・・・。」
「!!」

何を譲らないのか。    わかるような気がした。
いつのまにそういうことになってたんだ。 ふぅん。  ま、頑張ってな。

内心で冷たくつぶやきながら、オレはそこでハタと気付いて知りたくなった。
なので聞いてみる。

「ところでさ、三橋は何て答えたの。」
「・・・え・・・・・」
「だからさ、聞かれたとき何て答えたんだよ。」
「・・・・・・・・・。」

すごい勢いでまた赤くなった。
オレ意地悪かな。 でも知りたい。
けど三橋は真っ赤な顔で俯いてしまったきり返事してくれない。 ダメか。

「・・・いいよ、じゃあ田島に聞いてみるから。」

ばっと顔が上がった。 涙目になってる。

「・・・・・『いい』」
「え?」
「『いい』 って・・・・・・・・返事した・・・・・・・・」

思わずにんまり笑っちゃった。

「『いい』 んだ?」
「・・・・・・・・・・・。」
「どのへんが?」
「!!・・・・・・阿部・・・くん・・・・」
「うん」
「・・・・意地悪だ・・・・・。」

うんそう。 ごめんな。
おまけに変な話をしたせいでやりたくなってきちゃった。
でも今はできない。 当たり前だけど。 なので囁いてみる。

「今日さ、うちに泊まりに来ねえ?」  

「・・・・誰かいるからヤだ・・・・・・・」

やっぱダメか。 でも、てことはいなきゃいいんだな。
じゃオレが行こうかな。 
三橋のおふくろさんが帰ってくる前にできないかな。 無理かな。



ぽかぽかと気持ちのいい昼時の屋上で、
オレは思い切り不埒なことを考えてニヤニヤしてしまったんだ。















                                           それぞれの事情 了

                                             SSTOPへ










                                                 ヒトゴトで良かったね・・・