オマケ






人がまばらになってきて大分走りやすくなった。
それを幸いとばかりに全力疾走して、
これだけ走ればそろそろ大丈夫かなと少し足を緩めたところで。

むず  と腕を掴まれた。 すごい力だった。


あぁ捕まった。


瞬間そう思った。

次に何かを思う暇もないくらいの容赦のない力で向きを変えられた。
よろけて倒れそうになった体を腕1本で支えられる。
疾走したせいで心臓が破裂しそうだけど、目の前の阿部くんも
肩で息をしていた。 そしてその顔は。


怒り一色だった。


「このバカ!!!!」
「ひっ」

当然予想していたのに思わず首をすくめるくらいの厳しい声だった。
全身で、阿部くんは怒っていた。
表情からも、掴まれている腕からもはっきりと伝わってくる。
皮膚がびりびりするくらい、それは強い。

「ご、 ごめ・・・・・・」
「なんでオレが怒ってんのか」

阿部くんの声が怒りで震えている。

「わかってんのかよ!!!!」

また反射的に首を竦めた。
視線に耐えられなくて目をぎゅっと瞑りながら わかってるよ、 と思った。
思ってから自信なくなった。  それとも。
わかって、 ないのかな・・・・・・・・・。

「バカ!!!!!」

たちまち目の奥が熱くなってしまう。 情けない、と思うけど。
こんな凄まじい剣幕で怒鳴られるのなんて久し振りで。
怖い、  という恐怖感が先に立つ。

だって、 とか  でも  とか頭の中に湧いた言葉をとりあえず言おうとして、
ちらっと阿部くんの顔を盗み見て。

オレは固まった。


怒っているはずの阿部くんの目から 

水が

ぽろりと   一粒落ちた 

のが見えたから。





なワケない。     涙  だ。



びっくりし過ぎて自分の涙は引っ込んでしまった。
何か言おうと口を開けたきり、言葉が出てこない。

オレの顔を睨みながら阿部くんはオレ以上にびっくりした顔になった。
慌てたように空いている腕で目をぐいっと拭うと、またまっすぐにオレを見た。



「こ の、 バカヤロウ!!!!!」



怒鳴る阿部くんの顔は歪んでいた。







オレは  本当に  バカだ




その時    心の底から そう、   思った。














                                             了

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