オマケの続き
反射的に逃げようとしてしまったのは嫌だったからじゃない。 「逃げんな」 低い声で囁かれたかと思うと腕を掴まれ、またすぐに口を塞がれた。 「・・・んっ・・・・・・・・」 眩暈がするような幸福感と同時に、とまどいや疑問や それから 初めてのことに生理的な恐怖心も募る。 混乱しているうちに背中に阿部の手の熱い感触を感じて、 しかもその熱に すぅっと背骨をなぞられて。 ぞくりと、 肌が粟立った。 急速に下半身に集まる熱を散らすことができない。 羞恥と快感で全身が震えた。 でも。 「い、 いや・・・・・・・・」 唇が離れた僅かの間に紡いだ言葉も本気じゃなかった。 けれど、その瞬間手が離れた。 三橋は立っていられなくなって阿部の腕に縋りながらも ずるずるとその場にへたり込んだ。 追うようにして三橋の前に膝をついた阿部は そのままゆっくりと、三橋を畳に押し倒した。 震えながら目を瞑っている三橋の耳に阿部の掠れた声が聞こえた。 「・・・・三橋」 「・・・・・・・・・」 「逃げろ」 「・・・え・・・・・・?」 先刻とは逆の言葉に、驚いて開けた目に映った阿部の顔は苦しげに歪んでいた。 「逃げたほうがいい。 早く」 「・・・・・・・・・・。」 「でないとオレ、何するかわかんねー」 搾り出されるように発せられる声は微かに震えていた。 ふと、 気付いたように阿部が苦く笑った。 「オレ、めちゃくちゃなこと言ってんな・・・・・・・・」 笑っているはずなのにひどくつらそうに見える顔を呆然と見詰めた後、 三橋ははっきりと、 告げた。 「逃げない、 よ・・・・・・・・・」 好きだから、 と三橋は思った。 阿部が何を思ってこんなことをするのかなんてわかってないけど。 阿部は目を見開いた。 まっすぐに三橋を見おろした。 「「なんで」」 同時に同じ言葉をつぶやいた。 (逃げないんだ) と阿部は思った。 (こんなことを) と三橋は思った。 続きの言葉は2人とも呑み込んだまま、しばし見詰め合った。 三橋の中にほんの僅か、期待のような片鱗が閃いた。 それは期待と呼ぶにはごくごく小さな、すぐにも霧散してしまいそうな儚いものだったけど。 (もし、違っていたら) それでも構わない、 と思った。 傷つくのを恐れるよりも、阿部の目にくっきりと浮かんでいる苦悩が消える可能性に賭けた。 震えながら阿部に向かって伸ばした両手を 信じられない、 というような顔で阿部は見詰めた。 それから。 三橋が心から望んだことを、阿部はした。 ゆっくりと三橋に覆いかぶさって その裸の背をきつく抱き締めた。 両手に与えられた熱い体を 三橋は無心に、かき抱いた。 「好きだ」 耳元で囁かれた言葉に涙が一粒、 零れ落ちた。 了 SSTOPへ |