理由






・・・・・・・・まだ動かねえ・・・・・・・・・。



ぽやぽやした色の薄い髪が風に揺れているのを
上から眺めながらオレはため息を吐いた。

久し振りの休日の午後、部屋の窓から何気なく外を見たオレは
玄関の前に見慣れた姿を見つけて、まず驚いた。
今日は三橋は親戚の家に行く、とかで会えないはずだったのに。

でも今そこにいる、ということは
訪問が早く終わったか潰れたかで時間ができたんだろう。
そしてオレんちまで来てくれた、
と考えて我ながらだらしなくニヤけてしまったのがすでに10分前のことだ。

すぐにもチャイムを鳴らすだろう、と数秒だけ見るつもりが
何でそんなに長い時間眺めることになったかというと、
三橋がいつまで経っても突っ立ったままだからだ。

なぜ。

オレに会いに来たんじゃねーのか??

すぐに下に降りてドアを開けてやればいいんだろうけど、
いつ三橋が動くかと好奇心みたいなもんが湧いてしまって
観察して、そして今に至る。
ただ待ってるだけの10分は長い。
オレはイライラしていた。

何でさっさと鳴らさねんだよ!!!!

苛つきながら見ているうちに三橋はくるりと、玄関に背を向けた。
今度は焦った。

まさか帰るつもりか・・・・・・・・?

慌てて腰を浮かしかけたところで、またくるりとこちら側に向きを変えた。
ホっとしてまた腰を下ろした。 けど。
・・・・・・・そろそろ我慢も限界に。

それでもそれからさらに、5分だけ、我慢した。

オレにしてはかなりの忍耐だったと思う。








結局待ちきれずに玄関のドアを開けたとき、オレが怒った顔になっていたのは
仕方ないと思う。
三橋はオレが開けた途端に ぎょっとしたように飛び上がってそれから、
怯えた顔になった。
顔を見て怖がられた、ことに少々傷つきながらも、それも無理ねーかと瞬間思った。

「何ですぐにチャイム鳴らさねーんだよ?!!!」

もっと怯えさせるとわかってはいながらも声も怒気を孕んでしまった。

「う。  あ、 あの」

たちまちおろおろする三橋を見ながらオレは
「平常心平常心」  と心の中で唱えた。
怒ったままだとぐずぐずしていた理由がわかんねーかもしれないからな。
無理矢理笑顔なんか作ってみたりして。

でもこれは逆効果だったようだ。
三橋はさらに怯えた顔になった。 くそっ!!!

「あ、阿部く・・・・見て、た・・・・・?」
「15分前からな。」
「ご、ごめ・・・・・・・・」
「いいから、何でぐずぐずしてたか言えって!」
「あ、あの・・・・・・・・」
「うん」

三橋は落ち着きなく視線を彷徨わせてからオレの目をちらりと見て
慌ててあさっての方向を向いて、そのあと俯いてぎゅっと目を瞑ってからまた開けた。
見慣れた100面相とはいえ毎度のことながらさらにイライラが募る。
でもこれも毎度のことながら続きの言葉が出るのを、辛抱強く待った。
こいつのおかげでオレの忍耐力は以前より2割方アップしてるに違いない。

三橋は俯いたままようやくぼそぼそと、言った。

「なんて、言おうか、と」
「は?」
「来た、理由を、 なんて、言おうかって・・・・・・・考えて、て」

はあぁ???!

オレはしばらく俯いて感情をやり過ごした。

「お、 思いつかなくて・・・・・」
「バカかおまえ!?」
「うぇっ」
「そんなもん、なくていーだろ?!」
「え、 そ、」
「会いに来た、でいーじゃんかよ別に!!」
「へ?」
「おまえ、オレに会いたくて来てくれたんじゃねーのかよ?!」
「え、 あ、 そ、 そう、 そう  なんだけど」
「・・・・・・・・・。」   (平常心平常心)
「それで、 い、いいの・・・・・・・・?」


ぐったりと、 オレは脱力した。

「いいに決まってる」

いいどこの騒ぎじゃねーぜ・・・・・・・

内心でぼやくオレの目の前で、
三橋の顔が ホっとしたように笑ってそれから、少し くしゃっとなった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だから。

何でそこで涙ぐむかな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





いつまで経っても当たり前みたいに 「恋人面」 してくれない
つれない恋人に オレは小さく、またため息をついてしまった。











                                              理由 了

                                             SSTOPへ









                                                来ただけ進歩だと思う。