連鎖する苦労





自分では見えてないつもりでいたから。

「何してんだよ」

という声が聞こえた時、びっくりしてそれから、
あぁ見つかっちゃった と思った。


ほんのちょっと。
涙が引っ込むまで少しだけ、 というつもりで隠れてしゃがんでいた草むらの中。

今日の練習試合は負けた。  オレの力不足のせいで。
惜しかっただけに悔いの残る試合だった。

学校に帰るバス (珍しくバスで来ていた) まで少し時間があって。
試合場所のグラウンドで帰り支度をしながら時間を潰していた時に
我慢していた涙が溢れてきそうになったから、
バスの時間までには戻るつもりで人気のないほうに来ていた、のに。

阿部くんがオレの隣にしゃがむのがわかった。

「・・・・・ボ、ボール・・・・・探しに・・・・・・・・」
「嘘つけ」

あぁダメだ、   と悟った。  阿部くんにはバレている。
またぽろりと涙が落ちた。
阿部くんはよく 「オレのいないところで泣くな」 と言うけど。
やっぱりそれは恥ずかしい、  というか情けないような気がするんだ。

「オレのリードミスもあったしさ。」
「・・・・・・・・・。」
「外野のエラーも大きかったし」
「・・・・・・・・・・・。」
「気にすんなよ・・・・・・・・・・つっても無理かもしんねぇけど。」
「・・・・うん・・・・・・。」
「あんま1人で抱え込むなよな。」
「・・・・うん。」

阿部くんの優しさが心に沁みる。
目を閉じたら溜まっていた涙がまたぽろりと落ちた。 そしたら。

唐突にその涙を舐められた。

えっ  と思うまもなく次に唇に柔らかい感触が一瞬落ちてきて
オレはびっくりして目を開けた。  阿部くんの顔がすぐ近くにある。
瞬く間に頬が熱くなった。

(・・・こんなところで・・・・・・。 だ・・・誰かに見られたら・・・・・・・)

オレは内心で焦ってしまったんだけど。
「涙止まったな。」  と阿部くんが笑うのを見て気が付いた。

(ホントだ・・・・・・・)

びっくりして止まった。

「行こうぜ。 もうバス来るぜ。」
「・・・・うん。」

さっきより大分気持ちが軽くなっているのを感じながら
立ち上がって阿部くんの後ろに付いて歩き出した。












○○○○○○○

(三橋先輩がいない。)

オレはふと気付いた。
さっきまでいたのに。 今はどこにも姿が見えない。
負けたことで明らかに落ち込んでいる様子だったから急に心配になった。

三橋先輩はオレの憧れの投手だ。
すごいコントロールを持っているのに少しも奢ったところがない。
それにとても優しい。
でも泣き虫なんだ。
だから後輩のオレが言うのも変だけど
力になってあげたい!  なんて思ってしまう。
同期のヤツの1人はオレが先輩のことを褒めると
「三橋さんに必要以上に接触しないほうがいいんじゃないかな」
なんてワケのわかんないことを言ってたけど、
オレはもっと親しくなりたい。 だってすごい人だと思う。
今日だっていつも以上に上手く投げてた。
僅差で負けちゃったけど三橋先輩のせいじゃないと思う。

(探しに行こう。)

きょろきょろしながら走り出そうとしたら花井先輩が
「どうした?」  と聞いてきた。

「オレ三橋先輩探してきます!」

力んで言ったのに花井先輩は何だか少し変な顔をした。

「あー・・・・・・いいよ。 阿部が行ってるだろ。」

でも。

「でもオレも行きます!」
「・・・やめといたほうが・・・・・・・・・・あ、こら待て!!」

花井先輩が止めてるけどオレだって三橋先輩の力になりたい。
だから振り切って探しに走った。









適当に見当をつけて走ってたら人目につかないあたりに、三橋先輩と阿部先輩の姿が見えた。
ホッとして駆け寄ろうとして。

オレの足はぴたりと  止まった。




今。


阿部先輩が。


三橋先輩に。



(見間違い・・・・・・・?・・・じゃない確かに・・・・・そう見えた・・・・・ような・・・・・・)



呆然としてたら2人が立ち上がるのが見えたんで
慌てて踵を返してダッシュした。  心臓がばくばくしている。

(今の・・・・・・・何だ・・・・・・??!)


混乱しながらよろよろと戻ったら花井先輩がオレを見た。
それからやれやれという顔をして言った。



「だからやめとけって言ったのに。」














                                         連鎖する苦労 了

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