レンの、好きな、ヒト





「もしかしてレンレン、好きな人できた?」

唐突に言われて廉はびっくりして飲んでいたジュースに思い切りむせた。

「げほげほげほげほ!!!」
「あぁなにやってんのよもう! ホラ!」

怒りながらもタオルで拭いてくれるこのイトコは結構面倒見がいいのである。
ようやく収まって はーっと息をついた廉に、ルリは目をきらきらさせながら尚も聞いてきた。

「どんな子?」
「へ?!」
「だから! 好きな子!!」
(えっと・・・・・・・・・・)

廉は困った。  何て言えばいいんだろう。
というかその前に。
(何で、 わかったんだろう・・・・・・・・・)

素朴に疑問に思った廉はおずおずと問いかけた。

「何で・・・そう思ったの・・・・?」
「何が?」
「・・・・だから、好きな、人ができた・・・って」

ルリは即答した。

「顔で。」
「顔・・・・・・?」
「うん。 だって何か変。」
「へ、変・・・・・・・?!!」

廉はショックを受けた。 顔が変と言われれば廉でなくたってショックだろう。
でもルリはそれを素早く察知して慌てて言い直した。

「あぁ、変ていうか・・・・そうじゃなくて・・・・・」
「・・・・・・・。」
「何ていうのかなぁ、色っぽくなった? というか」
「い、い、色っぽい?」
「ん〜〜〜〜。 艶っぽい、ていうか。」
「・・・・・・・・・。」
「だからとにかく! 何となくわかるのよ!!」
「・・・・・・・・・・・・・。」

黙り込んでしまった廉にルリは最初の質問をまた容赦なくぶつけてきた。

「で? どんな子?」
「・・・・・・どんなって・・・・・・・」
「かわいい?」
かわいい??)

思わず笑いそうになった。

(かわいい・・・・とはあまり形容できないような・・・・・・・・・)

「・・・・・かわいくは、ない。」
「そうなんだぁ・・・・。 じゃあ美人?」
美人?!?」

(・・・・・それもちょっと・・・・・・・・・・・)

「美人、て感じでも・・・・ない・・・かな」
「へえぇえ〜〜、 じゃ、見た目はいまいちなんだ。」
「そんなこと、 ないよ!!」
「え?」
「・・・・・すごく、かっこいい・・・・・」
「・・・・・へえ・・・・・・何か、ちょっと意外・・・・」
「え?!」

(い、意外かな。 オレにはもったいないってことかな・・・・・・・)

「レンレンって男のくせに妙にかわいいから、
すんごいかわいい子でないと合わないような気がしてたんだけど。」
「・・・・・・・。」
「あぁでもあんた ぽやーっとしてるから、しっかりもののおねーさん、て合うかもね!うん。」
「しっかりしてるよ・・・・・・・・」   
おにーさん、だけど。
「ふぅ〜ん」
「・・・・・・・・。」
「で、上手くいきそうなの?」
「へ?」
「告白は? しないの?」

廉は黙って赤くなった。
そしてもうこの話をこれ以上するのはよそう、 と思ったのに。
ルリは長年の付き合いからピンときてしまった。

「もしかしてもう付き合ってんだ!!!」
「!!!」

ますます赤くなった廉を見てルリは確信してしまった。 恐るべし。

「へえぇ〜〜やるわね!! 何て言ったの?」
「へ?」
「コクったとき。」

(えーと・・・・・・・・・・・)

「言われた・・・・・」
「!! 相手から?」
「うん・・・・・・」
「何て?」
「え・・・・・・・・」
「付き合ってくださいって?」
「・・・・や、じゃなくて・・・・・・」
「好きって?」
「・・・・うん・・・・」 

(あぁ顔が熱い・・・・・)

「へえ! すっごいじゃない! 積極的なコなんだね!」

(? そうかな?  でも、そう、なのかも。)

「うんまぁ・・・・・あ、最初は言われなかった・・・・」
「はぁ?」
「しばらくしてから、言われた・・・んだ・・・・」
「・・・・・? しばらく? って? 付き合い始めてからしばらく? てこと?」
「・・・・ん・・・・」
「じゃあ何で付き合っていることになるの? それまではオトモダチ、でしょ?」
それは・・・・・・・・」

キス されたから。
その時はわからなかったけど、今思えばあの時から一応。

と思ったけど流石に言えなかった。 なのに。
この勘のいい従妹はここでもピンときてしまった。

「あ! まさか最初に何か行動された、 とか?」
「・・・・・・・・。」

廉は自分の顔が今やもうゆでダコみたいになったことを自覚した。

「・・・・・はあぁ〜〜・・・・・・・それはまた随分と・・・・・」
「・・・・・・・。」
「・・・強引、というか。」
「・・・・・・・・。」
「すごい、というか・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「あんたもしかして押し切られてんじゃない?」
「え・・・・そんなこと・・・ないよ・・・・・・」
「そう?」
「うん・・・・・。 それに優しい、よ・・・・」
「へえ。 優しいんだ。」
「うん。 すぐ怒るけど。 でも・・・・・・優しい、人だよ。」
「・・・・・・・・短気なの?」
「・・・・・うん。 割と。」
「ふうん・・・・・・・・」
「よく、怒られる。」
「どんなことで・・・・・?」
「えーと、ね。 ・・・・制限数超えて投げちゃったとき、とか。」
「・・・・・へぇ・・・・・。」
「あと、プロテクターちゃんと付けないとき、とか。」
「・・・・・・・・。」
「やる気のない、投球したとき、とか。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「言いたいことをちゃんと、言わないとき、とか。」
「・・・・・・・どんなふうに怒るの?」
「・・・・アタマぐりぐりされる・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「すごく痛い、んだ。」
「・・・・・力、強いんだ・・・・・・?」
「うん・・・。 多分、オレより、強い、よ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「オレより、手 大きいし。」

思い出しているような遠い目をして廉はふにゃりと、笑った。

ルリは黙り込んだ。

(かっこよくて、しっかりしていて優しくて短気で、積極的で強引で、力が強くて手が大きくて (それもレンより!)
野球のことでよく怒って、怒るとアタマをぐりぐり・・・・・・・・・・・)


くどいようだが、ルリは勘がいいのであった。
いや、もはやどんなに鈍い人間でもわからいでか! という気もするが。

「レンレン。」
「へ?」
「今、幸せ?」
「!・・・・・うん。」

その時の廉の顔が本当に、すごく、とろけそうなくらいのとびきりの笑顔だったので
ルリは (まぁいいか。) と思った。  そして

「頑張ってねレンレン! 応援したげるから!」

とにっこりと笑ったのだった。













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