水谷くんの気付いたこと





最近水谷は あれ?と思ったことがある。

最初は気のせいかと思ったけど。
それからも何かの拍子に同じことを感じることが何度かあった。

(オレだけかな・・・・・・? 他の連中は気付いてないのかな・・・・・・・
それともオレの気のせい?)

誰かに聞こうかと思ったけど、大して重大なことでもなかったので
そのままになっていた。






○○○○○○○

ある日の昼休み。

屋上ではいつものように、野球部の数人がたむろしてのんびり昼食を摂っていた。
水谷は行ったり行かなかったりその日によって違うが、今日は参加していた。
一時全然来なかった阿部も最近はまた来るようになっている。

田島がいつものようにあっというまに食べ終わって、
賑やかにしゃべっているのを花井がやれやれという表情でそれでも
笑いながら聞いている。
三橋は一心不乱に食べていて、阿部はそんな三橋の面倒をさり気なく見てやっている。
見慣れた光景だ。

と、そこで三橋がふと手を止めて阿部を見た。

(あ)  と水谷は心の中で声をあげた。
(まただ。)

なので以前からの疑問を、ちょうどいいやとばかりに口に出した。

「最近三橋ってちょっと変ったよな。」
「そうかぁ?」

田島が応じる。

「そう感じるのってオレだけ?」
「別に変わんないと思うけど。」

また田島だ。 花井と阿部と本人である三橋は黙っている。

「どう変ったって思うんだよ」
「うーん、なんつーか・・・・・・・えーと・・・・・・・
・・・・かわいくなった・・・・・? とも違うかな。 上手く言えないな。」

(どこかで聞いたような会話だな) と花井は思った。

でもあの時と違うのは、今度は水谷の気のせいばかりとも言えないんじゃないかというところだ。
花井も確かに三橋の雰囲気が最近少し変ったと感じていた。
一時の変な様子が消えただけでなく、たまに はっとするほど艶っぽい表情をする。
主に、阿部といるときであったが。
その理由は何となく (でも確信的に) わかる気がしたけど
花井はもちろん誰にも言っていなかった。

「かわいい〜?」
「いやなんてのかな・・・・・・・きれい??」

田島は噴き出した。

「きれい〜〜〜???」
「や、いつもじゃなくてたまに、なんだけどさ。」
「男がかわいいとかきれいとか言われても、あんま嬉しくないんじゃねぇの。」

田島はあくまでも屈託がない。
花井は横目でちらりと話題の当人と、その関係者を盗み見た。

三橋は少し赤い顔をしているものの、その顔には「?」マークが張り付いている。
自分では何の自覚もないのだろう。
三橋らしいといえば三橋らしい。

阿部はというと。
・・・・・・俯いていて表情がわからない。

(どんな顔してるんだろう)

花井は半ばからかうような気分で 「阿部はどう思う?」 と振ってやった。

どう答えるかとわくわくしていたのに返事は
「さあ」
といういたって素っ気無いものだった。
それに俯いたまま顔を上げない。

(ちぇ、つまんねーの)

でもその時花井は見てしまった。

俯いている阿部の耳が、それこそ真っ赤に染まっているのを。












                                         水谷くんの気付いたこと 了

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                                                田島はむしろ気付きそうな気も。