オマケ2






「ここ、 ここにも付けて?」

阿部くんはさっきからすごく楽しそうだ。
オレはもう抵抗する気力もなくて、言われたとおりにする。
示されたところに口を付けて強く吸う。

「・・・・・ん・・・・・・」

阿部くんのそういう声は、嬉しい。 
だってあんまり聞けないから。
これだけのことで聞けるんならいくらだって。

とは思うんだけど。

「じゃあ次オレな」

うきうき、という感じで言われてもオレはうきうきしない。
だってもう後はどこに、てくらい
オレの体はものすごく恥ずかしいことになってるんじゃないかと思う。
確認したくない、けど。

「ここって付くのかな?」

楽しそうな声に目を開けて、どこを指しているのかわかってぎょっとした。

「そ、こ は・・・」
「うん?」
「ダメ・・・・・・・・」
「なんで?」

なんでって、 そんなトコ。

と抗議するヒマもなく阿部くんは実行した。

「あっ・・・・・・・」

痛くて、でも。

「は、・・・・んんっ」

気持ちも良くて。

「へえ・・・・・・」

阿部くんの声がもっと楽しそうになった。
またイかされるのかなあとぼんやり思った。 何度目だろう。
明日休みだって、言わないほうが良かった、かなあ

とちょっと後悔した けど全然遅いし。
もう頭がぼーっとしてて どうでもいい。

でもこんなにいっぱい付けられても
服の下に隠れるとこばっか、なのはきっと阿部くんの気遣いなんだ。
もやっと湧く何かを、オレは残った少しの理性で急いで追い払う。

「オレはさ、おまえのもんだけど」

阿部くんが言った。 
その声がさっきまでと違って真面目だ、ということくらいはまだ わかる。

「・・・・・ん」
「まだ不安?」

改まって聞かれると違う、ような気がする んだけど。
不安じゃない、と言ったら絶対ウソになる。
弛緩した頭に、いろいろな思いが一瞬だけ渦を巻いた。
でもそれが何かってのはよくわからない。

というより、言葉で説明できない。
何て言えばいいのかわからなくて。

「・・・・・・・阿部くんは」
「うん」
「オレのもの じゃない、よ・・・・・・・」

目を瞑ったまま一番近い言葉を言った。
きっと誤解されるなあとちらりと思った。

でも阿部くんは何も、言わなかった。
どんな顔をしているのかも、怖くて見られなかったけど。

「でもオレは 阿部くんの だよ」

せめて、という気持ちで本音をまた言ったら
ふん、と阿部くんは鼻を鳴らした。
と思ったら、ぎゅーーーっと唇をつねられた。

「いっ」

これは全然気持ちよくない。 痛いだけ。
すぐ離されてホッとしたけどきっと怒ったんだ、と覚悟しながら目を開けたら
予想に反して阿部くんは小さく笑っていた。
行動とは逆に、その目はびっくりするくらい穏やかに 見えた。

「ばーか」
「へ」
「おまえ、ほんっとにバカ」
「あっ」

まともに返せなかったのは、阿部くんの指の次の動きのせいだったけど、
返す言葉も思いつかなかったからちょうど良かった、かもしれない。

「まあいいや」
「あ、 あ・・・・・」
「おまえさ、ほんとはわかってんだろ?」
「え・・・・・・」
「心配なんか要らねーってさ」

阿部くんの声は今度はまた楽しそうだった。

そうなのかも、しれない。 きっとそうなんだ。 

でも、 とまた言葉にできない何かが奥のほうからざわりと湧き上がる。
さっき追い払ったそれはすごく醜くて、知りたくもないのに
今度は逃げられなかった。
それに本当はきっと、逃げちゃダメなんだ。

オレって嫌な人間だ。 こんな自分がイヤだ  だいきらい、だ。



「でもおまえのそういうとこな」
「・・・・・・・・・・。」
「好きだよ、オレ」


不意打ちだった。

胸にストレートに響いて

あれ? と思った時にはもう零れてしまった。
ぽろりと頬を伝ったのを自覚して、びっくりした。

でも下まで落ちずにそれは拭われた。  指じゃなくて、舌で。
その後そうっと顔を包んでくれた手は温かかった。


上手く言えなかったこととかあれこれ、
阿部くんがどこまで見抜いたかなんてわからない。
「そういうとこ」 がナンなのかも、オレはわからない。   それに
阿部くんはオレのこと買いかぶっている、 のかもしれない  けど。


「バカだなあ」


阿部くんはまた言った。

とてもとても、 優しい声だった。










                                           了

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