効果絶大





気がつくと三橋が寝ていた。
と言っても熟睡じゃなくてうたた寝だけど。
こっくりと首が揺れている。


今日は三橋の家に来て数学の勉強に付き合っている。
数学が徹底して苦手な三橋に少しでもまともな点を取らせるためだ。
外はいい天気でぽかぽかと暖かいから
思わず眠くなるのもわからないではない、けど。
こいつさっきから全然公式を覚えやがらねぇ・・・・・・・・・・。
このままでいくと赤点は必至だ。
わかってんのかな。 緊張感なさ過ぎ。

「おい三橋。」
「・・・・う・・・・・」
「起きろよ。」
「・・・・・・ん・・・・。」

ぼんやりと目を開けた三橋はオレの剣呑な(多分)目つきを見て
慌ててまた教科書にかじりついた。 (ようなフリをしてるだけかもしんないけど。)

「今日中に公式だけでも全部覚えろよ。」
「う・・・うん・・・・・・。」

言いながらまた眠そうな顔をしている。 ダメだこりゃ・・・・・・・・・。

「後で言わせるぞ。」
「・・・・うぇ・・・・・」

まったく、 とオレはため息をついた。

「わかんないとこあったら言って。」

オレの言葉に頷いた三橋は
真面目にやり始めたようだったんで、オレも自分の勉強をやったりしていたら。

三橋がふと顔を上げてオレを見た。
何か言いたげな顔をしている。
質問かな? と思って待っていたら、また教科書に目を戻してしまった。
・・・・・・・・・・・?
違ったのかな・・・・・・・
まさか遠慮とかしてんじゃねーだろな。
今日はそのために来てんだから。

少し気にしつつも自分の勉強に戻ったら、いくらも経たないうちにまた視線を感じた。
やっぱり何か言いたげな目でちらちらとこっちを見ている。

「何? どこがわかんねーの?」
「え・・・・・・・・・」
「遠慮しねーで何でも聞けよ?」
「あ・・・・・・・、あの、ね・・・・・・・・」
「うん」
「・・・・・・・・・ちょっと・・・・・・・だけ」
「・・・・・・・・?」
「庭に、出て、練習・・・・・・しない・・・・・・?」

・・・・・・・・・・・・このやろう・・・・・・・・・・・・・・
やけに目がきらきらしてると思ったら。

「覚えたのかよ」
「・・・・・う・・・・」
「見ないで言ってみろよ。」
「・・・え・・・・っと・・・・」

三橋は見事に、きれいさっぱり覚えてなかった。
やる気あんのかよ。 赤点取ったらまずいだろーが!!
オレはちょっと腹が立ってきた。


と、そこでふといいことを思いついた。 顔がにんまりするのが自分でわかる。
三橋がびくっとして少しひいた。
・・・・・・・・・こいつオレのことよくわかってるよな。
じゃあご期待に応えてあげよう。

「おまえさ、やる気はあんだよな。」
「・・・う・・・ん・・・・・」   顔に「ナイです」って書いてあるぜおい。
「じゃさ、こうしよう。」

三橋の顔が怯えた。

「後で問題5つ出すから、1コの間違えにつき一回キスして。」
「!!」
「オマエからすんだぜ。」
「・・・・・・・・・・。」
「それもオレの指定したとこにして。」
「・・・・・!!!!」

三橋の顔が真っ赤になってそれから心持ち青ざめた。
三橋が覚えなかったらそれはそれで美味しいし・・・・・と考えて思わずにっこり笑ってしまった。
(多分そんなサワヤカな笑顔にはならなかったと思うけど。)
オレってアッタマいい。

なのに三橋のヤツ。

いきなりこれ以上ないってくらい真剣になりやがった。
さっきと雰囲気がまるで違う。
悲壮感漂うっつーか鬼気迫るっつーか。

そ  ん  な  に  すんのイヤなのかよ!!!  傷つくじゃねーかよ!!!!
・・・・・・いやそれとも場所指定ってのが問題なのか?
・・・・・・どこにキスさせられると思ってんだろう。
そんな変なとこは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・ちょっとは考えてるけどさ・・・・・・・・・・・。

いささか複雑な気分のまま(オレはな!) 2人してもくもくと勉強に没頭する。
いや正確に言えば三橋は、だ。
オレのほうは期待にそわそわしちゃって、あんまり集中できなくなった。 これじゃさっきと逆だ。
だってなぁ。 大体ほとんどいっつもオレからしてるような気がすんだけど。
じりじりしながら30分、我慢した。

さて、もうそろそろいいよな。
ちょっとくらいは間違えてもらわねぇと!!!

「じゃ、問題出すぜ。」
「え」
「もういいだろ。」
「・・・・う・・・・」

三橋の顔がマジで必死なのが気に入らないけど
教科書を閉じさせて適当な問題を考える。

まず一つ目は簡単なのにしてやろう。 かわいそうだもんな。

三橋は顔を引き攣らせながらも正解を出した。
まぁこれくらいで躓いてたら流石にまずいよな。
じゃ次から少しだけ難しいの。

・・・・・間違わねぇかな・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・と思ってたのに。
間違わなかった・・・・・・・・・。 でもまだ3問あるし!!

じゃこれは? 応用問題なら絶対無理だろ?

・・・・・・・・・・・・・・すげぇ必死で考えてんな・・・・・・・・・
そんなに頑張んなくていいんだぜ?
・・・・・・てか間違えろ。

三橋は間違えなかった。

・・・・・ダメだったかくそ・・・・・・・じゃあこれ。  今度こそ。
・・・・・・・・・間違えろ間違えろ。
間違えろってばこの!!

三橋の出した4問目の答をチェックしてオレは呆然とした。

・・・・・・何で合ってんだ (詐欺じゃねーか??)・・・・・
・・・・・・・・・・・いいよじゃあ次はこれ。 これはきっとダメ。 (もう5個目じゃん!)

・・・・・・・・間違えてくださいお願いします。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
祈るような気持ちで三橋の書いた解答を覗き込んだオレは絶句した。
・・・・・・・・・・また合ってるし・・・・・・・・(信じらんねぇ・・・・・・・・)




結局オレのココロからの願いもむなしく。

三橋は一個も間違わなかった。

くそぅ・・・・・・・・・・・・・・・

うへへへと嬉しそうに笑う三橋の顔を見ながら、オレはかなり憮然としちゃった。 
だって何だかなぁ。  あんまりといえばあんまりじゃねぇか?

だもんで本当は勉強が済んだら練習に付き合ってやろうかなとか
考えていたんだけど。

やめることにした。

してくんないんだったらオレからしてやる!!!


というわけでその後オレは三橋の手を掴んで有無をも言わさず引き寄せてキスをしてから
押し倒しちゃったんである。







いただきます。












                                          効果絶大 了

                                          SSTOPへ











                                          どこにさせるつもりだったんだ阿部。