気を付けるべきは





その日の練習中、途中から確かに体が変だった。
少し吐き気がしたし、僅かだけど頭痛もあった。

でも前日に珍しく遅くまで頑張って勉強してて、
(数学の小テストの点があまりに悪くて阿部くんに呆れられたし)
寝不足だったから、多分そのせいだと思ってあまり気にしてなかった。
だから普通にいつもの練習メニューを続けていた。

集合がかかって走り始めて、
ちょっと目が回るな  と思った次の瞬間目の前がすーっと暗くなった。










○○○○○○

あぁ美味しい・・・・・・・・・・・・・・・

ぼんやり思った。

水分が。
体の中に入ってくるのがわかる。
隅々まで浸透していく感覚がする。     もっと欲しい。
ひどく喉が乾いてる。
願っているとまた口の中が水分で満たされる。
貪るようにそれを飲んだ。

もっと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・









意識がすぅっとはっきりした。
水の底から浮かび上がるような感じ。
あれ?   と思った。
目を開けてみる。
まず目に入ったのは阿部くんの顔だった。 心配そうな表情でオレを見ている。
阿部くんの顔の後ろには空が見える。

てことは、 オレ・・・・・・・寝ている、 んだ・・・・・・・・・・・

気付いて、体を起こそうとしてみた。

「まだ寝てろよ。 三橋」

えっ?!

改めて辺りを見回した。

オレはグラウンドの隅の木陰で横になってて周りにはみんながいた。 
監督の顔も見える。

「気が付いた? 良かった。」

監督がすごくホッとしたような顔になったのがわかった。

「三橋くんはもう少し休んでて。  阿部くんはついててあげてね。
起きれるようになったら今日は帰りなさい。」

監督の言葉に えぇ? と慌てた。

焦りながらみんなの顔を見回したら、なぜか皆変な、顔をしているような。
表情が微妙に 変、 だし、何だか赤い。
???? わけがわからない。
大体何で自分が寝ているのかすらよくわからない。
混乱しているうちに皆練習に戻っていった。 阿部くんを除いて。

「阿部くん、 オレ・・・・・・?」
「おまえ倒れたんだよ。」

えっ・・・・・・・・・・

「今日ちゃんと水分摂ってたか?」
「あ・・・・・・・」

言われて思い出した。
そういえば、ほとんど飲んでなかったような・・・・・・・・・。

「脱水症状起こしたんだよ。」
「・・・・・・・・・・。」   
そうだったのか・・・・・・・・・。
「ったく。 おまえはよ。」

阿部くんは少し怒っていた。
表情と口調から、それがわかった。

「ごめん・・・・・なさい・・・・・・。」
「気を付けろよホントに。」

阿部くんはきっとすごく心配してくれたんだと思う。
不謹慎にも 嬉しい なんてオレは思っちゃった。
でも本当に次からは気を付けよう・・・・・・・・・。







○○○○○○○

翌日登校すると田島くんが 「おー。 大丈夫か、三橋」 と言いながら
寄ってきてくれた。

「うん・・・・・・。 ごめんね。 心配かけて・・・・・・」
「いいけどさ。 あれ結構危ないからマジで焦ったぜ。 軽くて良かったな。」

みんなにも心配かけたんだ。 オレってダメだな・・・・・・・・。

「阿部がもう真っ青になっちゃってさ。」
「・・・・・・・・。」
「でもなぁ。 ちょっと恥ずかしかったな。」
「え?」   何が???
「みんな引いちゃった。 オレはまぁ知ってるからまだマシだったけど。 そんでもな。」
「へ・・・・・・・???」

なんの話?

「三橋知らねぇの?」

だからなんの話・・・・・・・・。

「あぁそうか。 意識なかったもんな。」
「・・・恥ずかしい・・・・・って・・・・・?」
「あー 知らないほうがいいかも。」

知りたいんだけど。
田島くんはオレの表情を正確に読んだように 「知りたい?」 と言った。

「・・・・・・うん。」   知りたい。
「おまえが倒れてすぐ阿部が駆けつけてさ」
「・・・・うん。」
「モモカンが 『脱水症状かも』 って言ったんだ。」
「・・・・うん。」
「したら阿部のやつダッシュでポカリ持ってきて、いきなり自分の口に含んで。」
「・・・・・・・・。」   イヤな予感が・・・・・・・・・・・
「おまえに口移しで飲ませたんだ。」
「!!!!」    予感が当たっ・・・・・・・・・
「それも何度も。」
「・・・・・・。」
「そしたらおまえもさ、多分無意識だと思うんだけど。」
「・・・・・・。」
「阿部の腕をぎゅって掴んでさ。」
「・・・・・・・。」
「ちょっとラブシーン見てるみたいな感じで」
「・・・・・・。」
「それもすげーノウコウなやつ」
「・・・・・・・・・・・。」
「みーんな赤くなっちゃったよ。 はははは」
「・・・・・・。」
「しかもその後日陰に移動させようってなったらさ。」
「・・・・・・。」
「今度はお姫様抱っこして運んで。」
「・・・・・・。」
「それがまたすっげぇ大事そうに抱えるんで」
「・・・・・・。」
「またみんなして真っ赤になっちゃったんだぜぇ」


あはは、 と屈託なく笑う田島くんの顔が見れない。
顔から火が出そう。


・・・・・き、聞かないほうが良かった・・・・・・かも・・・・・・・・・。
それであの時・・・・・・・皆の顔が妙に赤かったんだ・・・・・・・・。



もう絶対に、何があっても
脱水症状にはならないように気を付けよう。


とオレはその時心に誓った。












                                        気を付けるべきは  了

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                                                   ありえねーよ。