君に望むこと





最近三橋がオレのことを避けている。

理由はわかってるんだ。

あの女、のせいだ。

大分前オレに告白してきたヤツ。 もちろん断ったけど。
したら、びっくりするようなことを言いやがった。

「私、三橋くんに負けないから!」

正直マジでびっくりした。  知ってたってこともだけど。

・・・・・その、妙な自信は一体どこから。

そう内心で呆れつつも一応聞いてみた。

「何で知ってんの?」
「見てたらわかるよ」
「・・・・・・・・・。」
「だって阿部くんの三橋くんを見る目、すっごい優しいもん。」

ふぅん。 そうかな。 そう、かもな。
あんま意識したことねぇけど。

とかぼんやりと思った。
見ててわかるくらいなのか、 とまた少し驚いたりしたけど。
(そんなの花井くらいだと思ってたぜ。)

それだけで終わればなんてことない出来事だった。
よくあることじゃないけど、たまには告白されることだってある。
世の中結構物好きがいるもんだ。  自分で言うのもナンだけど。

いつもと違ったのはその女がそのちょっと後で、三橋といるのを偶然見ちまった。
なに話してんのか当然気になった。
だからこっそり隠れて聞き耳を立てた。

そいつは 「阿部くんが好きなの。」 と三橋に言っていた。
三橋は黙っていた。
それから 「解放してあげてよ。」 と言いやがった。
続いて 「不自然じゃない? いつまでも続けられないでしょう?」 とも。

オレはその時点で飛び出してやろうかと思ったけどかろうじてこらえた。
三橋が何て言うか聞きたかった、から。

そんなことない、って言ってほしかった。
渡さないって言ってほしかった。
けどそう願いながらも三橋の性格を考えると多分、無理かもな、ともどこかでわかってた。

案の定あいつは黙ってうなだれて一言も言い返さなかった。 ただのひとっことも。
女は言いたいことだけ一方的に言ってさっさと行っちまった。
三橋はしばらく動かないで俯いていた。
オレは迷いながらも結局最後まで隠れて見ていただけだった。
その後も、それについて三橋に何も言わなかった。 聞いていたことも内緒にした。
だって三橋の反応が知りたかったんだ。

そしてまさにその後からだ。  あいつがオレを避けるようになったのは。

・・・・・何考えてるのか手に取るようにわかるぜ・・・・・。

何でもっと自信持たねえのかな。
オレがこんなに惚れてんの、あいつ知ってるはずじゃねぇのか?
ろくに話したこともない女があんなに自信持ってて、
こんだけ(イヤってほどな!) 意思表示している三橋がどうして自信持てねえのか、
オレにはさっぱりわからない。
いやわかるような気もするけど。
中学の時の経験だけじゃなく生まれつきのモンだってきっとある。
直せって言ったってそう簡単なことじゃねえってのはオレだってわかってる。 けどな。

・・・・・やっぱむなしいぜ・・・・。


それでもオレはしばらくは我慢していた。
我ながら健気だぜって感心するくらいには。
そのうち三橋も気を取り直して忘れるだろうと。

けど、三橋は一向に元に戻らなかった。
何だかんだと理由をつけては避け続けてやがる。
おかげで最近は2人きりで過ごす時間なんて全然持てない。
まさかこのまま   別れる、気じゃねえだろうな!!!

そんなふうにイラついていたし、焦り始めてもいたんで、とうとうオレは我慢できなくなった。
やっぱ何事にも限度ってもんがあるぜホントによ!







○○○○○○○

今日は練習のない休日なのに会う約束をしていない。
三橋がオレを避けてるから。
「用事がある」 とか言われたんだ。 嘘つけ。

オレは我慢が臨界点を超えていたんで、いきなり予告なしに三橋の家に押しかけた。
予想どおり三橋は、いた。
オレの顔を見て青くなってたけど構わずに無言であいつの部屋まで上がりこんだ。
予想と違って他の家族はいなかった。
だもんで怒りに任せてその場で押し倒してめちゃめちゃに抱いてやりたかった。
けど。

我慢した。
だって思い知らせてやりたいのは 『オレが三橋のもん』 だってことなワケだから。
無理矢理ヤってもな。 それはちょっと違うような。

三橋から、オレを欲しがってほしい。

『誰にも、取られたくない』 って言わせたかった。
・・・・・・もし、そう思ってくれている、のなら。

勝手にその辺に座り込んだら、三橋も青い顔のまま傍に座った。
いつもより、少し距離が遠い ことに痛みと同時にまた怒りがふつふつと湧いた。
努力してそれを抑えた。

「何でオレのこと避けてんだよ。」
「え・・・・・・別に・・・・・・」
「ごまかすんじゃねぇよ。」

怒鳴るまいとしたら声が震えた。
三橋は黙り込んだ。
下手に何か言うと怒鳴っちゃいそうで、
ぐっと言葉を呑み込んで辛抱強く待っていたら三橋が顔を上げた。


すごく変な顔をしていた。  


イヤな予感がした。


「オ、オレ・・・・・阿部くんと、 わか  れる。」


その瞬間


ぶつん、 と何かがキレた  のがわかった。

でも怒鳴らなかった。

「・・・・・・本当にそうしたいと、思ってんのかよ。」

代わりに感情を抑えて静かに言った。 心の中は嵐みたいだった、 けど。
したら三橋ははっきりと、また言いやがった。

「そう、 だよ。」


嵐が大きくなった。


「オレ知ってんだぜ。」
「え?」 
「あの女に言われたこと。 隠れて聞いてたんだ。」

途端に、三橋が慌てたのがわかった。

「だからそんなこと言うんだろ? オレのため、とか思ってんだろどうせ!?」

畳み掛けるように言ったのに。  三橋は明らかに動揺しながらも、また黙り込んでしまった。
待っても待っても 何も言わない。

ざわざわと、  心の中の嵐がさらに大きくなる。
いてもたってもいられない気分になってくる。

何で。

何で言ってくんないんだよ。
そうだって。 本当は別れたくないって。
オレのこと、何でもっと欲しがってくんないんだよ!!!

言葉が胸に渦巻いてる、 のに、 口に出して言うことができない。
もしかして。  と思っちゃったから。
もしかしたら、あの女に言われたこと、三橋には図星だったのかも。
三橋も実は、不自然だからこのままじゃいけない、とか思ってたのかも。
だから本当に本気で、別れたいと、望んでいるのかもしれない。
オレのことを避けながら、言うきっかけを探していたのかも、しれない。

そう考えたら、頭が麻痺したみたいにぼんやりした。
三橋の表情を見逃すまいと それだけ考えて ぼーっとあいつの顔を見つめた。

三橋は黙っている。  少し俯いて、自分の手をじっと見ている。
いつもは感情がすぐに出るくせに今日に限ってわからない。
迷っているんだか困っているんだかもなんにもわからない。

もう。  これ以上何か言われるのが怖い。    
もしまた同じことを言われたら。  オレ何をするかわからない。
頼むから何も言わないでほしい。

頭ががんがん鳴り始めて苦しくて堪らない。
三橋にしか治せないのに。
三橋の顔はまるで能面のようだ。

少しでも別れたくないって思ってるなら。
せめて悲しそうな顔くらいしてほしい。
表情でオレのこと安心させてくれよ・・・・・・・・

切望しながらバカみたいにひたすら見つめていた。
その時三橋が目だけでちらりとオレの顔を見てそれから。

すごく驚いた顔になった。 びっくり、なんてもんじゃなくて 「驚愕」 て感じ。
???   何でそんなに驚いてんだろ。
びっくりしてんのはむしろこっちだぜ。
いきなり最悪なこと言い出しやがって。

見ているうちに三橋の手がそっと伸びてきた。
え? と思ってるとその手が すりすりとオレの顔を撫でた。  何してんだ?
予想外の行動で、わけがわからない。
指が僅かに離れたんで、 見たら濡れてた。  何で?











オレ、 泣いてんのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・かっこわりーな・・・・・・・・・・・・・・






ぼんやり思いながらまだアタマが麻痺していてあまりちゃんと働いてくれない。
とにかく三橋の顔を尚も じーっと見てたら。


声が聞こえた。

「ごめん、なさい・・・・・・」

何で謝んのさ。  謝るようなこと、また言う気かよ・・・・・・・・・・・・

「別れたい、なんて・・・嘘、 だよ。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっと、  聞けた。


良かった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



ようやく少し息をついて(いつのまにか止めてたぜ) 下を向いたら涙がぼたぼたと落ちた。
もしかしてオレ、相当泣いてんじゃねぇか?
これじゃいつもと逆じゃん。   早く涙 止めよう・・・・・・・・・

まだ ぼぅっと霧がかかったような頭で考えてたら、
三橋がそっと、すぐ近くまで寄ってきてオレの体を抱いてくれたのがわかった。

「オレ、・・・・まだ、 阿部くんの恋人で、 いたい・・・・・・・・・」


・・・・・・・・・もっと早く言えよバカ。

・・・・じゃなくて!
「まだ」 って何だよ「まだ」って!!  こういう時は 「ずっと」 て言うんだよこのバカ!!!


また腹が立ったけど、三橋の胸に抱かれてるのがとりあえずすんごく気分良かったんで

たまにはこういうのもいいか、 と思いながら
しばらく黙ってじっとしていた。
頭の中でくるくると廻っている言葉があるけど、今ちょっと言えそうもないし、

そのまま三橋の胸に頭をもたせて目を瞑って、その心臓の音を聴いていた。











三橋、




もっと自分に自信もってくれよ。





そんで オレのこと、もっと欲しがってくれよ。











頼むからさ。

















                                                  君に望むこと 了

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