閑話・栄口くんの思うこと





「三橋ってさ」

栄口は三橋と並んで歩きながら、
以前から気になっていたことをこの機会に聞くことにした。
今日はたまたま帰りがいっしょになり、たまたま三橋も自分も自転車でなく
たまたま他の連中が誰もいなかったからである。

「中学の3年間ホントにずーっと野球部の中で嫌われてたの?」
「・・・・うん」
「最初から最後までずーっと?」
「や、 最初は・・・・・そんな・・・・・
 1年の夏休みくらい・・・・から・・・・・かな・・・・」
「・・・・・全員に?」
「や・・・・修・・・叶・・くんは、そんなに・・・・かも。
 話しかけてくれることも・・・・結構あったし・・・」

(でも叶くんには自分のほうが避けてたかもしれない)  と三橋は思う。
後ろめたさから正面から向き合うことができなかった。  いつもどこかで逃げていた。

「他の連中はさ、そんで意地悪したりしてたワケ?」

こういうのって触れられたくないことかもしれないと、栄口は少し躊躇ったのだが、
(でも過去のトラウマ? て、なるべく話したほうがいいって言うよな・・・・・・・)
などと自分に言い訳しながら聞いた内容は割と容赦ない。

「・・・・・・別に・・・・・大して・・・・・・・」

最後まで言わずに俯いてしまう三橋を見ながら
(ないわけじゃなかったんだろうな) と栄口は思ったが
流石にそれ以上追求するのは憚られた。

(やっぱそうか・・・・・・・・・)

自分なら耐えられないだろうと思う。  部活は毎日のようにあったはずだ。
ほとんどの人間が自分を快く思ってない集団の中で、
3年間毎日過ごすことを想像しただけで気持ちが冷えた。
並の神経ではできないと思う。

(こいつ、ある意味すごいよな・・・・・)

神経が太いんじゃなくておそらく
それだけ強く野球に、ピッチャーに執着しているんだろう。
すぐびくびくするし呆れるほど泣き虫だけど、芯の部分はとんでもなく強いのかもしれない。

そんなことをつらつらぼんやり考えていたら

「オ、 オレ」  

唐突に三橋が言った。

「うん」
「阿部くんに会えて、・・・・・・嬉しい。」
「・・・・・・そっか。」
「オレ阿部くんに・・・・・嫌われないように・・・・頑張る・・・・・・」
「・・・・うん、 良かったな。」

(確かに阿部がいなかったら)

栄口は改めてその僥倖を思った。
自分たちの中の誰かが三橋のすごさに気付けたどうか疑問だ。
阿部は一発で見抜いた。
抜群の配球センスを持っている阿部には、
三橋はこれ以上ないくらい自分の能力を活かせるピッチャーなのだろう。
阿部にとっても三橋と会えたのはラッキーだったはずだ。

・・・・というふうには多分三橋は考えていないが。

(ま、いいコンビだよな)  と思いながら心から言った。

「本当に良かったな」 

三橋は控え目に、でも嬉しそうに頬を緩めた。 

「最近は野球以外でも結構仲いいんじゃない?」

何気なく言ったら赤くなった。

「そ・・・・そんな、ことは・・・・・・」 

言いながらますます嬉しそうだ。
その様子を微笑ましく見ながらちょっとだけ、ほんの少し掠めるみたいに
何か予感のようなものを感じたが、それについて深く考えることは栄口はしなかった。


栄口がそのとき予感した 「何か」 は実は当たっていたのだけれど
当の本人の三橋自身、まだ自分では気付いていなかった。












                                         栄口くんの思うこと  了

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                                  三橋は強いと私は思います。