勘違いの副産物





「え? せっかく遊びに来たのにキャッチボールすんのか?」

その時花井は思わず言ってしまったけど、
野球部員としては大変好ましい姿勢であり、主将としては喜ばなくてはいけないところだろう。

もっともやりたくてしょうがないのは三橋だけであり、
阿部はそんな三橋に付き合ってやりたい一心だけかもしれないが。

そんなわけで快晴の空の下、気持ちのいい原っぱで阿部と三橋は
いつもの練習風景と大差ないことを始めた。

そんな2人を、並んで座って ぼーっと眺める花井と田島。
今日の田島は夕べゲームでほとんど寝てないとかでいつもより大人しい。
さっき昼食を食べて腹もくちくなったせいか目が半眼になっている。 今にも寝てしまいそうだ。
花井はバッテリーの2人を眺めながら、いつもながら三橋に甘い阿部に内心少し呆れていた。
あれが他のヤツだったら
「何でここまで来て野球なんか」 と一蹴したのは間違いない。
もう慣れたとはいえ、阿部の三橋への執着ぶりにはいっそ感動すら覚える。
だから少し前に 「あいつら付き合ってんだ」 と田島から聞いた時も
驚きより納得のほうが先にきた。
阿部の三橋への気持ちは友情の域を超えているんじゃないかと、
花井は前からうすうす気付いていたのだ。


「・・・・あいつほんっと好きだよなぁ・・・・・」

寝ていると思った田島がいかにも眠そうな声でつぶやいた。

「そうだな・・・・・」
「ちょっと普通じゃねぇってか」
「確かに見てて恥ずかしいよな」
「恥ずかしくはねーけど」
「そうか? オレは恥ずかしい」
「いいことじゃん!」
「まぁ・・・・・一途だよな」
「うん。 偉いよ」
「ある意味な」
「あれだけ一生懸命なのも好き、だからこそだよな!」
「確かに。」
「気持ちワカルけど」
「・・・・・わかるのか?」
「え! そりゃオレだって好きだもん。」
「・・・・・・え・・・・・・」

花井は驚いた。

(田島が三橋を・・・・・・・・好き??!)

でも最近田島は自分にキス、 を仕掛けてきたじゃないか、と 
花井はいささか理不尽な気分になった。
もちろん、冗談なのはわかっているけどそれにしても。

「花井は好きじゃねぇの?」
「オ、オレ?!」
「うん」
「・・・・・・いやそりゃ、好きだけど。 普通に。」
「普通なんだ、ふーん」

ごくりと、花井は唾を飲んだ。 やけに喉が渇く。

「・・・・おまえは特別に、好き、なのか?」
「そりゃそうだよやっぱ。」
「・・・・・・・・・・。」
「生活の大半を占めているわけだし?」
「そ、そうなのか・・・・・?」
「そうじゃん」
「・・・・・・・・・。」
「オレももっと頑張んなきゃなぁ」
「・・・・・・え・・・・・でも」
「何だよ」
「・・・・・まずい・・・んじゃないのか・・・?」
「何で?」
「何でって・・・・・・・」
「変なヤツだなぁ花井は」
「ちょっと聞いていいか?」
「へ?」
「どこがいいわけ?」
「はぁ?」
「だからどこが・・・・・」
「??いきなり何だよ。 そんな改めて聞かれても」
「・・・・・・・・・。」
「理屈じゃねぇよ」

(何でこんなに)

喉が渇くんだろう     と花井は思った。


「・・・・・そうか・・・・・」
「今日はちょっと眠くてダメだけどさ」
「・・・・はぁ」
「明日からオレもまた頑張るからさ!!」

「でも」
「は?」
「頑張っても・・・・ダメじゃねぇか・・・・?」
「はぁあ??? 何でそゆこと言うのさ?!」
「・・・・だってよ・・・・・」
「おまえちょっと今日おかしいぜ?」
「・・・・でも三橋が阿部以外のヤツに目を向けるとは・・・・・」
「は?」
「だから、あの2人はそう簡単には」
「なに言ってんだよ花井!?!」

そこで初めて花井は会話が微妙にズレていることに気が付いた。

「えーと。 田島。」
「なんだよ」
「おまえ何のこと言ってんの?」
「へ? 野球だけど。」
「・・・・・野球?」
「三橋が投げるのすっげぇ好きだな! て話!」
「あ・・・・・・・・・・・・・そ・・・・・・・」
「なに? 何の話だと思ったの?」
「・・・・・・・・・や、別に・・・・・・・・」
「教えろよー花井」


いや、まあ、 とか何とか花井はごにょごにょとごまかしながら
心底ホっとしている自分に気付いていた。

(あぁ焦ったぜ・・・・・・・・・・)

悲惨な三角関係になる想像をしちゃったぜまったく、  と胸を撫で下ろしながら
それだけでない別の焦りを感じたような気もしたけど。

それはきっと気のせいだろう、

と花井は思った。











                                         勘違いの副産物 了

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                                                   ほんとに気のせいですか?