* 名前呼び別バージョン。 こちらのほうが頂いたご提案に近いです(若干)。 タイトルはなし(^^;)





それを聞いたのは偶然だった。
聞いた時不覚にも涙ぐんだ。 それくらい嬉しかった。

すぐ近くにオレがいることに田島も三橋も気付いてなかったんだろう。 
2人からは死角になってたし。
聞こえた会話の内容に、オレは足を止めて息を殺した。 
だって他ならぬオレのことだったからだ。
話を振ったのは田島のほうだった。

「おまえらもさー、随分仲良くなったよなあ」
「おまえらって・・・・・・・」
「あー、おまえと阿部」
「・・・・・そ、かな?」
「うん、そう見えるよ」
「ふひっ」
「良かったな!」
「うん・・・・・でもオレ、もっと」
「うん?」
「もっと・・・・・・・・・・」

そこで三橋は少しの間黙っていた。
何か考えているんだな、と推測して待っていると三橋は素っ頓狂な声を上げた。

「そうだ!!」
「なに?」
「オレ、もうすぐ誕生日、なんだ!」
「おー、オメデト!!」
「17歳に なる!!」
「だなっ」
「部で3番目、だ!」
「え? ・・・・あーうん、そだな!」
「だから 誕生日から 阿部くん、ナマエで呼ぶ!!」
「ナマエ? ・・・・・・ってタカヤって呼ぶん?」
「そ、そう!! そんで、もっと 阿部くんと、 近く」
「いいんじゃね? カタチは大事だぜ!」
「誕生日、きっかけに するっ」
「おお、頑張れ三橋!」

オレはそっとその場を離れた。 舞い上がりながら。
だって三橋ってほんっとによくわかんなくて未だによくわかんなくて
イライラすることもよくあって、
何考えてんのか知りたいとかもっと理解したいって思うのに、空回りしてばっかだし
そもそもそんなこと願ってんのオレだけじゃね? てのは正直凹む。

でも違った。 三橋もオレと同じだったんだ。
これが嬉しくないわけがない。

うきうきしながらオレは思いついた。
三橋がオレのことタカヤって呼んでくれたら、オレも三橋のことを廉って呼ぼう。
そのほうが自然だし、田島じゃねーけど形は大事だ。  いい考えだ。

そして誕生日当日が来て、オレは朝からそわそわしていた。
今日はオレらのステージが一段上がる日だぜ! と意気込みながら登校すると
最初に会ったのが三橋だった。
よっしゃ! と思わずガッツポーズしかけた右手をかろうじて制して
普通の顔を作って待った、のに。

「おはよう、阿部くん!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?

タカヤじゃなかった、とがくりとしたけど気を取り直す。
忘れてんのかもしれない。 それか、最初だから緊張してんのかも。

そう考えたらまたふと思いついた。
別に呼ばれるのを待たなくてもいーんだ。
オレから名前で呼んでやったら、三橋も呼びやすくなるだろうし。

というわけで早速実行する。 早く聞きたいもん、早く早く。
そういや挨拶をまだ返してないから。

「はよ、 れ・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・阿部くん?」
「・・・・・・・れ・・・・・んしゅう頑張ろうな」
「え、うん!!」

またがくりとした。 今度は自分に。 違うだろオレ・・・・・・・・・・
けど思ったよりも照れくさい。
いやいやいや、次こそは呼んでやろう。
用事がなくてもとにかく話しかけて、その時に呼べばいいんだ。

そう目論んで、練習の合間に三橋に近づいた。

「あのさ、れ・・・・・」
「え?」
「れ・・・・・・・・・・・」
「?」
「・・・・・・・レンコン、好きか?」

違うにも程があるだろがあああああ!!!

激しく脱力したオレに三橋はふにゃりと笑いかけた。

「す、好きだよ?」

語尾にハテナが付いたのがわかった。 
笑ってはいるけど、顔もハテナだった。 当たり前だ。
誰が聞いてもわけがわからん。
これで終わりにするのはもっと変だけど、続きを考えてもなんも出てこないのは
レンコンでこれ以上発展させるのが難しいからだ。 
何かレンコン料理でも知ってたら
「じゃあレンコンの美味い食い方を教えてやる」 とか言えるけど知らねーし
「今度レンコン食いに行こうか」 ってのも意味不明だしあああもうめんどくせえ

「そっか、そら良かった」
「う、うん」

会話終了、そして三橋の顔のハテナ度合いがでかくなった。 無理もない。

ぐったりと三橋から離れながらオレはここでも気を取り直した。
次こそは頑張ろう。
三橋に名前で呼んでもらうためなら少々恥ずかしいのなんかヘでもない!

と決意を新たにして、朝練後の着替えの時にさり気なく隣を陣取った。
ちらちらと窺って、着替えが終わるタイミングを見計らって口を開く。

「れ」
「へ?」
「れ・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・?」
「れ・・・・・・・・・・・トルト食品は体に良くないぞ」
「・・・・・うん・・・・・・・・」

ぶん殴りたい!!!! オレを!!!!

と1人で瞬間湯沸かし器と化した直後だった。

「気をつけるね。 たかや くん」

一瞬呆けた。

三橋はといえば、言うなりがばっと荷物を引っ掴んで光の速さで視界から消えた。
だもんで呆けながらも目だけで探したら早くも背中が豆粒だった。
素晴らしいダッシュだ。  さすがはオレのエースだぜ。

去り際の顔はちゃんと見た。 真っ赤だった。
てことは、やっぱ三橋も照れてたのかもしんない。
良かった、オレだけじゃなかったんだ、とどこかでホッとしながら今頃気付いた。
肝心のおめでとうを言い忘れてた。
レンコンよりもまずはそれを言うべきだった。 また後で言えばいいか。

等々こちゃこちゃと思考は回るものの、体のほうはしばらく停止していた。
明らかに変調をきたしたからだ。

なんでこんなにドキドキしてんだろう。
なんでこんなに顔が熱いんだろう。 ちょっと普通じゃないレベル。 てことは。

これは、つまり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オレは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・きっと風邪を引いたんだな、うん。

風邪に違いない。
念のために後で保健室に行って風邪薬をもらおうそうしよう。

そう決めて、まだ収まらない動悸を持て余しながらオレはぎくしゃくと歩き出した。










                                             了

                                   SSTOPへ





                                                      レンコンが書きたかった。