本気の証明





もうすぐ三橋の誕生日だ。

恋人! の誕生日といえばやっぱり一大イベントだろ!!

と燃えるのは当たり前のことだとオレは思う。
プレゼントだってちゃんとあげたい。 恋人としては!
さらにできれば独りよがりじゃなくて喜んでもらえるものをあげたい。
と思うのも恋人・・・・・じゃなくて人として当然のことだと思うワケである。 オレとしてはさ。


なのにこいつは。

「・・・・・阿部くんが・・・・いっしょにいてくれれば・・・・・それでもう・・・・」

とかぬかしやがった。

あぁ何てかわいいんだ。
もちろんその日はいっしょにいてやるぜってかいっしょにいさせて下さいできれば夜まで
いや夜と言わず翌日の朝まで。

・・・・・と思ったけどそこまでは言わずにとりあえず
「もちろん2人で過ごそうぜ。」
とクールに言うのに留めた。 うん、いい感じだぜ!!

「でもさ、何か物もあげたいんだ。 何がいいか教えてよ。」

三橋は赤くなった。 ホントいちいちかわいい。
貰えるのが当然と思わないあたりがたまんねぇよまったく。
でもだから余計になんかあげたくなんだよな・・・・・・

「・・・・・じゃあ・・・・」
「うん」
「・・・・肉まん。」
「は?」
「肉まん・・・・・・・・」

えー・・・・・それはちょっと・・・・・

「もっと別のねぇの?」
「・・・・・じゃあ・・・・・」
「うんうん。」
「・・・・・メロンパン・・・・」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・食いモン以外で。」
「え・・・・・」

だって食いモンなんて普段でも奢ってやることあるし、
第一食っちゃったら残らねぇじゃんよ!!
もっとあげ甲斐のあるモンがいいんですけどオレとしては!!!!

「・・・・じゃあ・・・・・」
「・・・・・・・(今度こそ)。」
「・・・・は・・・・花・・・・」

・・・・・はい??!!
聞き間違い・・・・・? じゃ、ねぇよな・・・・・

「花ぁ?」
「う・・・・やっぱり・・・・ダメかな・・・・」
「・・・・・・・・。」
「買うの・・・・恥ずかしい・・・よね・・・・ごめ・・・・」

や、全然恥ずかしくねぇけど! 三橋のためなら!! けどさ。
花?・・・・なんて好きだっけこいつ・・・・・・??
それに。  ・・・・花も枯れちゃったらおしまいじゃん・・・・・・

「もっと別のなんかねぇの?」
「・・・・・う〜〜・・・とね・・・」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・石鹸・・・・・」

はいぃい???!!!!?

「石鹸・・・・・・??」
「うん・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「もういいや。」
「・・・・え・・・・」
「オレ自分で考えるから。」
「・・・・・・阿部くん・・・・・・」
「なに」
「オレ・・・・・ホントに・・・・いっしょに過ごせるだけで・・・・・・・」
「黙れ三橋」
「う」

三橋は青くなった、 のがわかったけど
オレは内心憮然としていたので、それ以上しゃべるのはやめておいた。
我ながら賢明な判断だったと思う。






○○○○○○

阿部くんがオレの誕生日に何かくれようとしている。

それはすごく嬉しい。 嬉しいんだけど。

・・・・・・何も欲しくない・・・・・・

そんなこと言ったら阿部くんは、怒る、かな・・・・・

きっと怒る・・・よね・・・・・

でも本当に欲しくない・・・・・・・。 だって。

・・・・・・この先ダメになっちゃったら。

きっとそれを見るのがつらくなる・・・・・・

それにダメにならないワケがない、とも思う。
卒業したら多分分かれ分かれだし。
その前に、それまでもつかわからないし。
阿部くんは、もてるから。
そのうちきっと素敵な女の子を見つけると思う、んだ。

やっぱりオレ男だし。
いつまでも付き合ってくれるとは、思えない・・・・・・

その時はオレはちゃんと笑って別れる、けど。 多分。 うん。 頑張る。 けど。

幸せな思い出の何かが手元に残っていると、きっと、すごく、つらい・・・・・・

だから、モノは。 ・・・・・・・・要らないんだ。

思い出だけでも、つらい、のに。
ましてや物なんてないほうが、いいんだ。

そんなこと、阿部くんには絶対・・・・言えないけど。







○○○○○○○

「・・・・・なーんてこと考えてるに決まってんぜあのやろう!!!」
「・・・はぁ・・・・」
「だから消えてなくなるモンばっかり言いやがるんだ!!」
「・・・・なるほど・・・・・・。」
「もっと聞いたら石鹸の次は、消しゴムとかシャーペンの芯とか言い出したに決まってる!!」
「・・・・・はぁ・・・・・・」

花井はこっそり、すでに何度目かになるため息をついた。

目の前には思い切り剣呑な顔の阿部がさっきから自分相手に
ぶつぶつ、あるいは轟々と文句だのグチだの怒りだののオンパレードである。

「何だってあいつはああまで後ろ向きなんだよ!!」
「まぁ三橋だから。」
「限度ってもんがあんだろ!?」
「オレに怒られても・・・・・」

阿部は元々グチを垂れ流す性格ではない。
ましてや三橋のことは、本人のみならず三橋のあれこれを暴露する結果になるためか
滅多に惚気たりすることもない。
(もっとも阿部の場合無自覚にダダ漏れさせている部分が大きいわけであるが、
それは本人あくまでも無意識なので、百歩譲っていたしかたないとする。)
その阿部がこれだけ盛大に言い募る、ということは
相当アタマにきて憤懣やるかたない心境なんだろう、とは花井にもわかる。
それに、言える人間も限られているわけだから
そして自分に白羽の矢が立つのもわからないでもないので、
(田島あたりにグチったらどうなるか、目も当てられない結果になるのはほぼ間違いない)
一応仲間兼友人としては、たまのことだし聞いてやらねばならないとは思う。 思うが。

「どうしてもっとオレのこと信じてくんねぇんだよ!」
「言ってやればいいじゃん・・・・・」
「言ってるよ! ずっとそばにいるって!!!」
「・・・・・・(あぁそう・・・・)。」
「や、そりゃしょっちゅうは言えねぇけど。 折に触れてはちゃんと言ってるのによ!!」
「・・・・・・・ふーん。」
「卒業してからだって離れる気ねぇし!!!」
「・・・・・・あ、そう・・・・」
「おおかた男だからとか何とか引け目感じてんだろうけど。」
「だろうなぁ。」
「あいつその辺の女よりずっとかわいいじゃん! 顔も性格も!!」
「・・・・・はぁ・・・・」
「そりゃ あいつから冷めたら。・・・・どうすることもできねぇけどさ・・・・・」
「うん。」
「オレからってのはあり得ねぇよ!!」
「・・・・・そうだろうな。」
「いっつもそう言ってんのに!」

これがノロケ以外のなんであろうか。
阿部の本気は花井にはイヤってほどよくわかる。
それを一番知らなきゃならない三橋になぜ伝わらないのかさっぱりわからない。
花井はげっそりしながら、少し水を差してやりたい気分になった。

「・・・・でもまぁ先のことなんてわかんねぇよな。」
「・・・・・・え・・・・」
「絶対、なんてことはないだろ何事も。 三橋はそれを冷静に考えてんじゃねぇのか?」

言いながら花井は本当にちょっとそう思っていた。
この2人は阿部のほうが一見大人なように見えるけど、
必ずしもそうとは言えないんじゃないかと花井は常々思っていたし、
実際先のことなんて誰に断言できるだろう。

しかし阿部はその誰かであったため、即行で断言した。

「オレは絶対あいつを離さねぇ。」
「・・・・・・・・。」
「それにあいつは多分そういうことを考えて、じゃなくて!! 単に悲観的なだけだ!!!」
「あぁまあ・・・・それは、あるかもな・・・・・」
「オレはそれが許せねぇんだよ!!」
「・・・・・はぁ・・・・・」
「他のことはともかくとして! オレのことまでそんな悪いほう悪いほうへと
 考えなくてもいいんじゃねぇか?」
「だからそれは三橋だから・・・・・」
「どうしてもっと信じてくんねぇんだ・・・・・」

話が全然進まない。 かれこれ小1時間くらい同じところをぐるぐる回っている。
花井はうんざりして、また少々意地悪な気分になった。

「おまえ、前科あるから。」
「は?」
「前女の子と付き合ったよな。」
「!!!・・・・あれは・・・だってダメだと思ってて・・・・」
「でも付き合ったじゃん。」
「・・・・おまえな・・・古傷えぐるなよ・・・・」
「傷ついたのは三橋のほうだと思うけど?」
「ぐ・・・・・・。 でも!!あの後はもうオレあいつ一筋だぜ!!」
「・・・・・・だな。」
「絶対カケラもこれっぽっちも余所見なんてする気ねぇよあいつだって知ってるはずなのに!」

また惚気になってきた。
花井はやや投げやりな気分で投げやりに提案してみた。

「いっそ指輪でも贈ったら?」
「は?」
「指輪贈ってプロポーズして、ついでに 『廉くんをください』 てご両親に挨拶に行ったら
 三橋も信じんじゃねぇ?」
「・・・・・・・・・。」

(あーしまった、茶化しすぎたか)   と花井が内心で思った途端に阿部がつぶやいた。

「いいなそれ・・・・・・・」
(えぇえ??!)
「うんそれいいな、うん。」
おいおいおい阿部くん!!!)

花井は真っ青になった。
三橋の両親とモモカンとかシガポとか校長とかが集まって、野球部の問題点についての
話し合い会議なんぞ開かれている場面が一瞬脳裏をよぎった。

「や・・・・・ちょっと待て阿部!!」
「指輪は銀かな、 いややっぱプラチナかな。」
「いやだから待て!!」
「オレの貯金で足りると思う?」
「いやあの! オレが悪かった!!」
「え? 何で? いいこと言ってくれてサンキュ・・・」
「いやだから冗談だから!!」
「冗談? なんて言ってないぜオレ。」
「いやちょっとそれは野球部としてはマズいんじゃ」
「部は関係ねぇじゃん。」
「そんなワケには・・・・・・・あ、それに三橋のご両親だってびっくりして」
「大丈夫わかってもらうから!!」

(あぁあオレのバカ・・・・・・・・)

花井は必死で考えた。 高速回転する花井の脳みそ。

「あ! でもほら! 法律でダメじゃん!」
「え?」
「結婚できるのって男は18歳? からじゃなかったっけ?  確か。」
「・・・・・あ・・・・・・」
「な?! だからやめとけ!」
「そうか くそぅ・・・・・」
「・・・・・・・・(た、助かった・・・・)」
「そうだそれにちゃんと自分で生計立てて
 絶対心配いらねぇってなってからじゃねぇとダメだよな!!」
「・・・そ・・・そうだよ阿部!!(何でもいいから卒業後にして・・・・・・・)」
「じゃあとりあえず指輪だけ」
「えっっ!!」

(・・・・・マジですか・・・・・・)
(いやこいつなら買いかねない。 てかもう掛け値なしの本気で買う気満々のご様子・・・・・・)

絶句している花井とは対照的に阿部の目はきらきらと、輝いている。

「そんでさ。」
「・・・・・なに・・・・・」
「銀とプラチナ、どっちがいいと思う?」
(いっそダイヤでも買ったらぁ?)

・・・・・とはもう言う気力さえない花井であった。
うっかり言ったらマジで買いそうで怖い、 というのもあった。

それから

(オレもいい加減こいつのことについては学習したつもりだったけど。)

・・・・まだまだだな・・・・・・

とか何とか某なにがしのようなことを思ったとか思わなかったとか。












                                           本気の証明 了

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                                                 まだまだだよ・・・・・