オマケ






目を奪われた。

陽の光に透けてきらきらと、光る髪。

(きれいだな・・・・・・・・・)

ぼけっと見惚れながら一瞬、状況を忘れて起こすことを恐れてしまった。
ドアを開ける時、周囲が静かだったせいかやけに音が大きく響いたから。
でも恐れた直後に我に返った。

(迎えに来てやったのに。)
(ぐーぐー寝てやがって。)

意識して内心だけで文句を垂れつつも、実はこの事態は予想していた。
三橋のことだから課題がわからなくて寝てんじゃねーかと。
だから来たんだ。
まずは起こさなきゃならない。 もちろん。

「三橋」

呼んでも動かない。 顔が窓のほうを向いてるんで、顔が見えない。
寝顔が見たくなって、足を忍ばせて傍まで行った。
すぐ隣の席の椅子に、派手な音がしないように気を付けながら座った。

三橋は気持ち良さそうに寝ている。
日が当たってぽかぽかと温かくて、三橋でなくてもこれじゃあ寝そうだな
なんて甘いことを考えながらも、オレはその無防備な寝顔から目が離せない。
三橋の寝顔はそれなりに見る機会がある。 
学校ではクラスが違うからほとんどないけど家で。  主に夜中と、それから朝に。

そう思ったら急にドキドキしてしまった。
それに付随するあれこれをうっかり連想してしまったからだ。
練習途中なのに。  変な気分になってどーするオレ!!
自分で突っ込みながらも次にまた浮かんだことは。

(触りてーな・・・・・・・)

明確にそう思ってしまったら我慢できなくて。
きらきらと光っている柔らかい髪にそっと触れた。 途端に。

(あ)

危うく出そうになった声を呑み込んだ。
三橋は、起きている。  ぱーっと赤くなった顔が雄弁にそれを告げている。
つられてオレも赤くなった。(ような気がする)
だってこんな。  バレバレなことなんかして。
別にいいけど。 今さらなんだけどそれでも。

気恥ずかしい気分になりながら、でも同時に悪戯心がむくむくと湧いた。
起きてるんなら。

オレは髪に置いた手をゆっくりと顔のほうに移動して、そのまま指を滑らせて唇に触れた。
触れるか触れないかくらいのぎりぎりの辺りでそろりと撫でてやった。

今度は耳まで染まった。 楽しい。
同時にざわと、体の内側が騒いだ。 お馴染みの衝動。 マズい、とどこかで警笛が鳴った。
今これ以上妙な気分になるのはマズい。
なのに手が止まらない。
理性を裏切って手がうなじに触れてしまったら。
ほんの微かにその肩が揺れた。 気のせいかとも思えるくらい僅かな動きだったけど、
オレにはわかった。 ますます動悸が激しくなった。

起きてるくせに。 絶対困っているくせに。
じっとしているのはなぜかというと多分。

我慢できなくて指を背中に滑らせながら、どんどん警笛が大きくなる。
やめないと。
オレが、やめてやらないと。
これ以上、ヤバい衝動が大きくならないうちに。



背中から手を引き剥がして、自分に渇を入れるような気持ちで
思いっきり強くデコピンしてやった。

「イタ!」

上がった声は間が抜けていて、ぱちんと、泡が弾けるように
空気が日常のそれに戻るのを感じた。 ホっとした。 けど。
さっき感じた気恥ずかしさとか、ざわめきとかがまだどこかで燻っている。
おまけに涙目で頬を染めている三橋の顔がすぐそこにあるしで。
赤い唇がミエミエの嘘を吐く前に素早く塞いでしまった。

(これだけで、我慢しといてやるよ。)

心の中でつぶやきながら、それでもまだしつこく残っている諸々をごまかすために
努力して普通の顔を作っていたのに。
そこで三橋が笑ったもんだから。 

いつもの変な笑い方だったんだけど、うっかり顔を見てしまって。
それがあまりにも幸福そうな、蕩けるような笑顔だったもんだから。


強烈に抱き締めたい衝動にまた襲われて、

慌ててさっきより強く、その額をはじいてしまったんだ。












                                              オマケ 了

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                                                   理性が勝って良かった。