初恋は  その後





栄口が何だかよくわからない激励の言葉を残して去った後、
三橋のそばに行って正面に座った。
改めて三橋の様子を見ると、目を真っ赤に泣き腫らしていた。
多分、オレが怒鳴ったせいだろうと思ったら胸が痛くなった。
でもまずこれだけは訂正しておかないと。

「三橋」
「う」
「あのさ」
「・・・・・・・・・・・。」
「さっきのウソだから」
「え・・・・・・?」
「オレ、田島とは友達以上にはなれねぇ」
「・・・・・・え・・・・」
「いくらおまえの頼みでもきけない。」
「・・・・・・・・・。」
「怒鳴って悪かったな」
「あ、あの」
「え?」
「オ、オレ言いたい、ことが・・・・・・・」

言いたいこと? 
とオレは思ったけどそれよりなにより、どうしても聞きたいことがオレにもある。

「・・・・・・オレも聞きたいことがあんだけど」
「え?」
「なんで田島と付き合えなんて言うわけ?」
「・・・・・・・・・。」
「ワケわかんねぇんだけど」
「あ、あのね」
「うん」
「田島くんの、好きな人が」
「はぁ」
「7組の、野球部の、かっこいい人って言う、から」
「・・・・・・・へぇ・・・・・・・」

・・・・・・・・・・花井か・・・・・・・

「阿部くんだと、思って」
「・・・・・・・は?」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・オレじゃねーと思うけど。」
「で、でもオレは阿部くんだと」
「なんで?」
「え、だってかっこいい人って・・・・・・・」

オレはちょっと呆けた。

「ち、違う、のかな」
「ぜってー違う」
「そ、そうなんだ・・・・・・・」
「で? 協力してやろうってか?」
「・・・・・・・協力してって、言われて」
「・・・・・・・・ふーん・・・・・・・・」

納得しながら、でもオレは少なからず落ち込んでいく自分を感じていた。
三橋はオレのこと、何とも思ってねぇんだな・・・・・・・・
ずぶずぶと沈む感覚を覚えながら知らず俯いて痛みに耐えていたら
思いがけなく三橋の必死な声が聞こえた。

「ででででも、ね?」
「・・・・・・・うん」
「オレ、悲しくて」

悲 し い?

思わず顔を上げて三橋の顔を見た。
三橋は見るからに一生懸命な様子でさらに言い募った。

「さっき、阿部くんが そうする、って言ったとき、悲しくて」
「・・・・・・・・・・。」
「な、涙出てきて」
「・・・・・・・・・。」
「ぜ、全然止まらなくて」

言いながら 「う」 と声を詰まらせて、慌てて 「はー」 と深呼吸している。

・・・・・・・・・・・・・そういう。
ことを言われると。
・・・・・・・・・期待したくなんじゃねーかよ・・・・・・・・・・・・・・・

「オレが怒鳴ったから泣いたんだろ?」
「ち、ちが、うよ!!」

やけにきっぱりと、三橋は否定した。

「あ、あ、阿部くんがそうするって、言ったのが」
「・・・・・・・でもおまえがそうしろっつったんじゃん」
「そ、そうなんだ、けど」
「・・・・・・・・・。」
「ほ、本当にそうなるのかって、思ったら」

そこまで言ってまた三橋は慌てたように俯いてごしごしと目を擦った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・なんか、夕日がやけに眩しいような気がすんだけど。


「・・・・・・・・・三橋」
「そ、それで、な、何でかなって」
「悲しかった?」
「うん・・・・・・・」
「すごく?」
「うん・・・・・・・・」
「・・・・・・・で、何でかわかんねぇの・・・・・・?」
「わかんない・・・・・・・・」

こいつさては。 
・・・・・今まで誰か好きになったこと一度もねぇな・・・・・・・・・・・


「今も悲しい?」
「え、あ、今は、もうそんなでも」
「なんで?」
「え、だって・・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
「阿部くん、ウソだって、さっき」
「なあ」
「へ?」
「何で悲しかったのか、本当にわからない、のか?」
「うん・・・・・・・」
「・・・・・・・ふぅん・・・・」
「で、でも栄口くんが」
「?」
「阿部くんがきっと、教えてくれるって」

あいつ・・・・・・・・・・・

「・・・・そのうち教えてやるよ」
「そのうち?」
「うん。 でもその前にさ」
「・・・・・・・。」
「あのさ」
「・・・・・・・?」

口の中が乾いて声が掠れそうになったんで、一拍置いてしまった。
この際掠れようがひっくり返ろうがどうでもいいんだけど。


「オレと付き合って?」
「・・・・・・・へ・・・・?」
「オレの恋人になって?」
「え」
「・・・・・・・・・・・・・」
「オ、オレ、が?」
「おまえが。」
「・・・・・・・・・・・・」
「イヤ、か?」
「え」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・ヤじゃない・・・・・・・」

はーっ とため息が出て、返事を待つ間 息を止めていたことに気付いた。
夕日が眩しすぎて目の奥がじんじんする。
のでごまかすために慌てて言ってみた。

「三橋、おまえ顔真っ赤」
「え。 あ、阿部くん、だって」
「これは夕日のせい」
「じゃ、じゃあオレも」
「三橋」
「へ?」
「ちょっと目ぇ瞑って?」


大人しく目を瞑った三橋の頬をオレはそっと両手で包んだ。












                                          
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