オマケ






春物の服を買いたかったから、帰りの道すがら
「オレ、ちょっと寄ってく」 とチェーン店の大きな服屋の前で足を止めた時は
1人で入るつもりだった。
したら巣山が 「あ、オレも見たい」 とか言って
それを皮切りに我も我もとなって結局ぞろぞろと連れ立って入った。

女性もののコーナーを通り過ぎながらふと目についた、
ディスプレイされている服を
「こーゆーの好きだな」 と何気なく指したら突っ込みがきた。

「水谷ー、おまえ女物なんか着んのかよ」
「ちが、オレじゃなくて、」

反論しかけてから 「あ」 と照れちゃったんだけど
らんらんと見つめてくる田島の目に負けて正直に言った。

「好きなコに着て欲しい感じっつーか」
「あー、なるほど!」

と今度はそれをきっかけにその辺にいた連中が口々に
「オレはこれかなあ」 といもしない彼女に着せたい服の話題になった。

ひととおり出てその話が終った頃になってから
阿部が近くの服を指さしてぽつりと言った。

「オレは、これ」

指の先には淡い色の春物ジャケットがあった。
地味なベージュ系だけど柔らかい感じの色と風合いで
朴念仁 (と思われる) 阿部の選択にしてはなかなか、とちょっと感心した。
でも 「ふーん」 とだけ返しながら何かが引っ掛かった。
何だろう? と考えてもわからなかったし、すぐに忘れたんだけど。


違和感の正体に気付いたのは、店を出て少ししてからだった。
一番前を歩いている阿部の背中をぼんやり見ているうちにふいにわかった。

「あれ、男物じゃん・・・・・・・」

思わずつぶやいたら隣の泉が反応した。

「なにが?」
「え、あー さっき阿部がさ、『彼女に着せたい』っつったの男物だったなーって」

笑いながら言ったんだけど。

「ああ・・・・・・・・・」

泉は別に笑わなかった。 代わりに微妙な顔になった。

「阿部って時々ヌけてない?」

そう言ってまた笑ってみたら。

「そうだな・・・・・・」

やっぱり微妙な顔のままうっすらと笑ったはいいけど苦笑いみたいに見えた。
「あれ?」 と思った。 デジャヴってやつだ。
こんな感じの表情を前にも見たことがあるような。

いつ見たのかと考えてみたけど今度は全然、さっぱりわからなかった。










                                       オマケ 了

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                                                  そのことに三橋は気付かなかった。