事件後日談 その2





あの事件については翌日、田島と花井にだけは簡単に説明した。
それから他の部員には言わないようにと一応口止めもした。
わざわざ口止めしなくても言うようなヤツらじゃないとわかってはいたけど、念のため。
男に襲われたなんてうわさになったら三橋がかわいそうだ。
でも今後の対策についてはどうしたものかと、決めかねていたある日のこと。

練習の後に三橋がオレにおずおずと言ってきた。

「また、呼び出されたんだけど・・・・・」 
「誰に?」
「あ・・・・あの・・・・・委員会の・・・・・・」
「なにぃ?!!」

オレはその時すごい形相をしたんだろうと思う。
三橋があからさまに怯えた顔になったからだ。

「まさか行く気じゃねえだろうな!?」  と詰め寄ったオレに三橋はびくつきながら
「阿部くんも・・・・いっしょに・・・て・・・・言ってきてて・・・・」   と言った。






○○○○○○○

指定された場所に三橋とともに向かうと
そいつと、あの時「田中」と呼ばれた人の良さそうなヤツがいた。
オレは一応「田中」には頭を下げた。 あの時教えてくれたことには本当に感謝していたから。

初めて見た「委員会男」は全然想像と違ってた。
オレは勝手に悪そうな顔をしたごつい男をイメージしていたけど
実際は悪そうでもなく、ごつくもなかった。 普通の高校生だった。

人は見かけによらない・・・・・じゃなくて
それだけ思いつめていた・・・・ということかな・・・・・・。

そいつは何度も頭を下げて
あの時は本当に悪かった、どうかしていた、
もう2度としないから許してほしい  と真面目に謝罪を繰り返した。

三橋はああいう性格だから
いいも悪いもなく簡単に許してしまった。  ったく・・・・・・。

それからオレのほうを向いて
君の名前を使って悪かった、「阿部」と言えば来ることがわかっていたから、 
と言うのを複雑な気分で聞いた。

最後にぽつりと
何とかして振り向いてほしかったけど、もう諦めるからと、
寂しそうにつぶやいたそいつの姿に
自分の未来の姿がダブって見えて胸がずきりと痛んだ。
あんなに殴りたいと思っていたはずなのに、もうそんな気にもなれない。


オレだってそいつと同じだ。
オレに怒る資格なんてない。


オレはこれからの自分を考えて、三橋に気付かれないように
こっそりと重いため息をついた。






○○○○○○○

そんなわけで、とりあえず毎日三橋を送らなければとまで
懸念していた問題は一応解決して良かったけど、
これがきっかけで自覚せざるを得なくなったオレは
全然良くなかった。   と思う。



でも時間の問題だったような気もするけどな。












                                            事件・後日談その2 了

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                                                     そのとおり。