エンドレス





「言っとくけど 『いっしょに過ごすだけでいい』 てのはダメだからな」
「え・・・・・・・」
「それから、食いモンと花と石鹸と消しゴムとシャーペンの芯もダメだからな」
「う・・・・・・・・」
「で、 何がいい?」
「・・・・・・・・トイレットペーパー・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・ケンカ売ってんのかてめぇ・・・・・・・・・」
「うっ   あ、  じょ、じょじょじょ」
「・・・・・・ションベン行きてーの?」
「ち、ちが・・・・・・・・・ 冗談、 デス」
「本当か?」
「ほ、ほんと・・・・・・・」
「そんで? 何がいい?」
「・・・・・・・うー・・・・・」
「思いつかねーんならオレが提案してやろうか?」
「へ?」
「一晩たっぷりとサー」
「そ、それは、いい、です!!!!」
「・・・・・・・・・・・・あ、そう」
「あ! じゃあ」
「うん、なに?」
「れんしゅ」
「さっき言い忘れたけど、『練習に付き合う』 てのもダメだかんな!」
「えっ・・・・・・・・・・」
「それじゃあ、いつもと同じじゃんかよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「で、なんにする?」
「・・・・・・・いっしょに映画に・・・・・・・・」
「却下」
「え」
「じゃなくて! いっしょに過ごすのはもう決まってんだよ!!」
「え、そう、なんだ・・・・・・・」
「ったりめーだろが」
「でも、 た、誕生日の日って練習、ある よね?」
「その次の休み!」
「え、 あ」
「・・・・・・・なんだよダメなのかよ」
「そ、そんなわけ」
「じゃなくてさ、だから今聞いてんのは 『欲しい物』 なんだけど!」
「・・・・・・・う」
「だから  なになにしてほしい、 てのは却下」
「え、 でも」
「なんだよ」
「さっきの阿部くんの・・・・・・」
「あぁ?」
「一晩・・・・・・・・・・・・・・・てのは・・・・・・・」
「あー、それは例外」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「あ、じゃあオレの時と同じでラブホ」
「いいいいい、デス!」
「・・・・・・・・・あ、そう」
「・・・・・・・・・・・・。」
「そうだいいこと考えた!」
「え・・・・・・・」
「誕生日だから逆になるってのどう?」
「へ?」
「だからさ、おまえがオレにするってのは」
「い、いい・・・・・・・・・」
「えー でも、おまえだってもう1回くらい」
「いえもういい・・・・・・・デス」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「じゃあ何がいんだよ!!」
「えーと・・・・・・・・」
「残る物だぜ?」
「・・・・・・・ボール」
「は?」
「野球のボール・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「却下」
「え? だって・・・・・・」
「確かに物だけど」
「物、だよ・・・・」
「でもそれじゃあなんつーの? 色気がないってか」
「・・・・・・・・。」
「もっとこうさ、誕生日っぽいのねーの?」
「誕生日っぽい・・・・・」
「そう、たとえばさ、指輪とか!!!!」
「えぇえぇ?!!!?!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・冗談だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「だから、服とか、長く使える小物とかさ」
「・・・・・・・・・・うぅ」
「なんかあるだろが!!」
「・・・うー・・・・・・・」









○○○○○○○

「まだかな・・・・・・・」

栄口はため息をついた。

「まだみたいだな・・・・・・・」

花井もため息をついた。


その日の朝、いつものように部室に来た花井はドアの前でふと足を止めた。
中から話し声が聞こえたからだけど、それだけなら別にどうということもない。
躊躇などしないで入るところだ。
足を止めてしまったのはそれが阿部と三橋の声だったからだ。
続いてドアに耳をつけて内容を確認してしまったのは、
万が一朝から何かしてらっしゃったら嫌だな、 という咄嗟の判断だったけど。
それは半分は当たっていた。
2人は見られて困ることはしていないようだった。 が。
アホらしくも微笑ましい、恋人ならではの会話を繰り広げていた。
そこで、終わるまで待ってやろうと花井が寛大に思ったのは
単純に機嫌が良かったのと、早めに来たためまだ時間に余裕があったからだ。
続いて来た栄口も、苦笑しながらも花井に倣った。

しかし今、2人は後悔し始めていた。

アホみたいな会話はいつまで経っても終わりそうにない。
それだけでなく、ところどころ微妙に知りたくないような事柄まで混ざるような。
ヘタに聞いてしまったせいで 入るに入れない、という心境になってきた。

部室のドアの前に佇んだまま、また2人揃ってため息をついたところで
元気のいい声がした。

「おーっす!!」
「田島」

田島は2人を見て不思議そうな顔をした。

「どしたの? 入んねーの?」
「あ、いや今」
「田島ちょっと待」

慌てた2人の制止の声をきれいに無視して田島は勢い良くドアを開け放った。
中の2人の会話はぴたりと、止まった。

「おっはよー」

田島の屈託のない声に花井と栄口はこっそりと冷や汗をかいたが、
それでも三橋も阿部も、片や慌てながら片や仏頂面ながらも挨拶を返した。

「お、はよう、田島くん!」
「・・・・・・っす」

やれやれと胸を撫で下ろしながら、続いて入りかけた花井の耳に、
また田島の明るい声が聞こえた。

「あーそうだ三橋さ、もうすぐ誕生日だよな?!」

まずい、 と花井と栄口は思った。
今この場でその話題はまずいような気がする。
が、制止するわけにもいかない。
結果的に立ち聞きしたことがバレるのは大変宜しくない。
そして嫌な予感は当たった。   田島はあっさりと言い放った。

「前おまえが欲しいっつってたCD、やるからさ!!」
「え、あ、 ・・・・・・ありがと・・・・・・・」

ぴしりと、花井と栄口は硬直した。
阿部も硬直した。 顔が。
三橋は阿部をちらりと盗み見てから、おどおどと挙動不審になった。
田島は4人の様子には頓着なく、からからと笑った。

花井と栄口は、でも阿部の引き攣った顔を見ることはしなかった。
恐ろしくてそっちを見れなかったからだ。

それが朝の出来事だった。






○○○○○○

その日の練習後、帰宅しかけた栄口が忘れ物に気付いて部室に戻ったのは
不運としか言いようがない。
栄口は部室の前でぴたりと足を止めた。

もう誰もいないと思っていたのに、中から話し声がしたからだ。
デジャヴを感じながらうっかりまた聞き耳を立ててしまったのは
朝の一件を思い出したからに他ならない。


「あ、 阿部くん」
「おぅ」
「き、決まった、よ!」
「なに?」
「あの、 オレ、 CDが」
「却下」
「へ」
「田島と同じなんてヤだ」
「・・・・・・・・え」
「大体、オレにはねーのに田島には言うのってのナンだよ!」
「え」
「・・・・・・・すげー傷ついたオレ・・・・・」
「え、あの、 でも」
「でもなんだよ」
「あれ、は  ずっと前言ったのを、田島くんが、覚えていて」
「・・・・・・・ふーん」
「・・・・・お、オレも忘れてた、くらいで」
「・・・・・・・とにかく、CD以外な!」
「・・・・・・う」
「なんかねーの?」
「・・・・・・・・・。」
「だからさ、思いつかねーんならやっぱオレが夜がんば」
「お、思いつく、 よ!!」
「じゃあなに」
「う・・・・・・・・・・」


栄口はため息をひとつ吐いてから、忘れ物の回収を諦めてひっそりと立ち去ったのであった。













                                                  エンドレス 了

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