伝説の男





「え・・・・・・・・??」

その時思わず聞き返しちまった。

「今何つった・・・・・・・?」

でも本当は聞こえていた。 すぐには上手く信じられなかっただけで。
だってあんまり突飛すぎて。

三橋は今にも泣きそうな顔で 「う」 と言った。

オレも 「う」 と思った。   泣く。  これはもう泣くすぐ泣く今にも泣く。

でも予想に反して三橋はこらえて 「何でもない、デス」 と言った。
それから
「今のは、間違い、 あ、聞こえて、ない、よね・・・・・・
あああ明日、また ・・・・・オオオオオレの球、受けて、くれる、よね」

とかブツブツ切りつつ、そんでも精一杯の早口で言いながら
すささささ、 とドアの方に移動していった。

あれ? てことは帰るのか? 1人で? 待っててくんないの?

なんてオレがバカみたいに思っている間に、三橋の姿は部室から消えた。
1人残されたオレはしばらく突っ立ったまま呆けていた。

・・・・・・・えーと・・・・・・・・
さっきの言葉・・・・・・・・
「間違い」 とか言ってたけど間違いじゃ、ねぇよな多分・・・・・・。

あいつはオレに確かに 「好き。」 と言ったんだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
えーと。 
オレ男なんだけど。
いやそれくらいあいつもわかってるよな。 いくらあいつが変人でも。 うーん。
どうすっかな・・・・・・・・
オレ今別に彼女いねぇし、好きな子もいねぇしな・・・・・・・
三橋でもいいか。  うーん。

ぐるぐるしながら、オレは結局どうするとも決められないまま部室に鍵をかけて歩き出した。
歩きながらまた  「どうすっかなぁ」 とぼんやり考えていたら。

「阿部、何だよその顔。」

という声が聞こえてびっくりした。 見たら花井だった。

「花井」
「よぅ」
「おまえ帰ったんじゃねぇの。」
「寄り道してたんだ。」
「ふぅん」
「・・・・・・・・・。」
「オレ、変な顔してた?」
「すごく」
「どう変?」
「すげぇニヤけてた。」
「・・・・・・ふーん・・・・・・」
「何かあったのか?」
「・・・・・・・・・・。」
「いーじゃん。教えろよ。」
「・・・・・うーん。・・・・・三橋がさ」
「うん。」
「オレのこと好きっつーから」
「は?」
「オレのこと好きだって。」
「・・・・あぁ・・・・・・・」

あんまり驚かねぇなこいつ・・・・・・

「・・・・どうしようかと思って。」
「えぇ?!」

なんだその妙なリアクション・・・・?

「付き合うんじゃねぇの・・・・・・?」
「え・・・・・・・」
「付き合うだろ?」

なんだよその断定口調!?

「何でそう思うワケ?」
「・・・・え・・・・・だってさ・・・・・」
「だって?」
「おまえ・・・・・・・・」

言ったきり花井は変な顔して黙りこんでしまった。
自分のがよっぽどおかしな顔してんぜ!!
その、地球外生物を見るような目でオレを見んのはヤメろ!!!!

「まぁいいや。じゃな。」
「え?」
「オレこっちだもん。」
「あぁ・・・・・。 待てよ花井。」
「何だよ」
「さっきの質問の答がまだだぜ」
「あー・・・・・自分で考えな。 じゃな。」

何だよあいつ感じわりーな。

とむっとしたけど、オレもさくさく帰ってなんも考えずに寝てしまった。







○○○○○○

翌朝グラウンドで三橋の姿を見て 「おっす」 と挨拶すると、
「ひぁ!」 と飛び上がりやがった。  何でだ。

「あ・・・お・・・おはよう・・・ござ・・・」

言いながら三橋はなぜか涙目だ。 うぅイライラする。

「おまえな・・・・・朝から何だよその顔。」
「へ?」
「オレなんかした?」
「し、し、してない・・・・デス。」

そこでオレは気がついた。
昨日の件を気にしてるワケね。  じゃあさっさと言っちゃおう、と思ってから
そういえばまだどうするか決めてなかったと思い出した。
でもまあいいか。  うん、別にいいよな。  特に問題ねぇし。
と結論を出しつつ 「昨日のことだけどさ。」 と言った、 途端に叫ばれた。

「あ、あ、あ、あ、あれは! ・・・忘れて・・・・ください!!」

えぇ〜〜????!!

「忘れろだぁ・・・・・・・?」

オレはじりっと三橋に近づいた。
「ひぃ」 っと三橋は1歩下がった。 
オレがさらに近づこうとしたら、やにわに脱兎のごとく逃げて行ってしまった。

・・・・・何だあいつ。
好きってったのは嘘だったのかよ何だよ。
オレ付き合ってもいいって思ったのによ・・・・・・・・
これじゃまるっきりぬか喜びじゃん。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
ぬか喜び・・・・・・・・?
オレ喜んでたのかな?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。    いや別に・・・・・・・
イヤじゃなかったけど。全然イヤじゃなかったけど。 そんな嬉しいとかまでは。 多分。
や、ちょっとうきうきしたのは確かだけど。
でも男どうしだし。 それってどうなんだって気も。

・・・・・・・でも。
忘れろとか言いやがるし。 (何でだ!!!!)
ひょっとして気の迷いだったのかな。
気の迷いで「好き」なんて言うかな普通。 三橋って普通じゃねぇしなぁ。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
あぁ気分わりぃ。
おし! 朝のうちに白黒はっきりさせてやるぜ!!
そうだ呆けてないで追いかけないと!!!

と思ったら集合の号令がかかった。  随分長い間ボケっとしてたらしい。
しかもなぜかその日の朝練はミーティングになって、三橋はずーっとオレから一番遠いところにいて、
終わるやいなやまた逃げていきやがったんで、結局最後まで捕まえられなかった。 くそぅ!!







○○○○○○○

1時間目が終わったところで早速9組の教室に行った。
気になることはさっさと片付けるに限る。
ドアから覗いたら三橋は前の席の女子と話していた。 珍しい光景だ。
てかオレが違うクラスだから知らねぇだけかもしんねぇけど。

そう思ったらむかむかしたけど、一応話が終わるまで廊下で待つことにした。
なのに、全然終わらねぇ。

何話してんだよ!  用事とかじゃなくて世間話?
オレの用事のが大事なんだよ!! 早く話ヤメろ!!!

なんてイライラしてるうちにチャイムが鳴っちゃった。 ちくしょう!!


2時間目が終わってまた速攻で行きたかったんだけど次が体育だったんで
急いで着替えてそれから9組にダッシュした。
・・・・・三橋がいねぇ。
泉がいたんで捕まえて聞いた。

「三橋は?」
「地学室。」
「はぁ? 何で?」
「次地学だから。」

・・・・あーそうですか・・・・・・

「オレももう行かなきゃ」 と走っていく泉を見送りながらオレは よし! 次だぜ! と思った。

なのに体育の終了が長引いて、4限目に間に合うのが精一杯だった。
ちくしょう・・・・・上手くいかねぇ・・・・・・
でも次は昼休みだ。 いくらなんでも昼には捕まえられるだろう。
オレは昼休みになると速攻で (5分だぜ!) メシを食って (花井がびっくりしてた)
すぐに9組にかけつけた。

三橋はまたいなかった。
今度は田島に聞いたら。

「あいつ購買にパン買いに行った」

よし! 購買だな!!

オレは今度は購買にダッシュした。
なのに見慣れた茶色の髪は見当たらない。 オレはイライラしてきた。
すれ違ったかな、  と急いでまた9組の教室に戻る途中で数学の教師に呼び止められた。

「おー阿部!」
「何すか。」

我ながらかなり無愛想な声が出ちゃった。

「このプリント、休み時間中に皆に配っとけ。」
「・・・・・はぁ。」

くそこの忙しいときに!! と思ったけど、仕方ねぇから自分のクラスに戻って
花井に押し付けて (ナンか言ってたけど無視した) またダッシュ。   なのに。

またいねぇ!!!

しゃべくっている田島と泉に聞いた。 (というより怒鳴った)

「三橋は?!」
「英語のセンセに呼び出された」
「はぁ? 何で!」
「さぁ・・・・・・・」
「こないだの小テストで赤点とったからじゃない?」

オレはそのまま9組で待っていた。  2人が妙な顔してたけど構うもんか。
けど帰ってこねぇうちに予鈴が鳴り響いた。 何なんだよまったく!!
オレは怒り心頭に達しながら (誰への怒りかわかんねぇけど) しぶしぶ戻った。

次のチャンスは5限の休み時間だ。
これを逃すともう部活だ。 部活の前にすっきりさせたいぜと思って、終わるやいなやまた走った。

今度こそ、三橋はいた。けど。
側に田島と泉もいて。 それだけなら別にいいけど。
三橋のヤツ田島に肩を抱きかかえられている。  ムカつく。
顔を俯けて・・・・泣いてる・・・・・・?
オレはアタマにきた。

「三橋!!」

三橋は文字どおり飛び上がった。
田島と泉もびっくりしてオレを見てる。
ついでにその時教室にいた他の連中もオレを見てる、ような気がするけどどうでもいい。

「あ、あ、あ、阿部くん・・・・」

やっぱ泣いてる。

「何で泣いてんだよ!!」
「ひぃっ」

泣いてんのはいいんだ別に。 こいつよく泣くから。 アタマにくんのは。

「何でオレんとこ来ねぇんだよ!!」
「ひぁ?」
「悲しんならオレのとこで泣きゃいいだろ何で田島なんだよ!!!」
「・・う・・・ぁ・・・・」
「おまえ昨日好きだっつったの嘘なのかよ!!!!」
「!!・・・うぅ〜〜」
「オレがせっかく返事しようとしたら逃げちゃうし!!!」

「阿部さん阿部さん」

誰かがオレの肩をつんつんとつついたんで、見たら泉だった。

「何だよ!」

泉が小声で言った。

「三橋が泣いてんのってそもそも阿部のことなんだけど。」
「はぁ? なにそれ? 泣きたいのはむしろオレ・・・」
「あのさ、オレいい方法知ってるよ。」
「え?」
「阿部がさ、三橋に『付き合って』って言えばいいんだと思う。」

あーそうかなるほど。  泉いいこと言うじゃん!

オレは速攻で怒鳴った。

「三橋! オレと付き合ってくれ!!!」

三橋はびっくりした顔をして、それから真っ赤になって、その後またぼろぼろ泣きながら

「・・・・・ハイ・・・・・」

と小さな声で言った。

よし!!   とオレは大いに満足した。







○○○○○○

その後しばらくは廊下でひそひそうわさされたり、
田島に笑われたり花井に呆れられたりしたけど、オレはそんなことどうでもよかった。
三橋が笑ってくれて、そんで悲しいときは田島じゃなくて
オレんとこ来てくれれば他のことなんてどうでもいいんだ。


その後、さらにしばらくしてから田島に

「あの時の阿部な、もう西浦の伝説になってんぜぇ。」

と言われた。

それを三橋に言ったらまた例によって赤くなったり青くなったりしていたけど
オレはやっぱり大満足してたから、
「まぁいいじゃん別に。」  と言って笑ったら
三橋も安心したように へらっと笑った。


ホラな

何のモンダイもねーだろ?














                                                  伝説の男 了

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                                                       問題ありすぎ。