来年もいっしょに
               クリスマス小話です。 H16年のクリスマス話 「手のひらへの」 と連動してます。







オレの部屋にみんながいてわいわいと楽しそうに騒いでいる。
それはオレにとっては嬉しい光景なんだけど。

もちろん全員じゃない。   いない人もいる。
そういう人は彼女とデートなんだ。 だって今日はクリスマスイブだから。
土曜で練習も早く終わったし。

「あーオレも彼女欲しいなー」
「無理無理」
「来年のクリスマスは絶対デートしてやる!!」

誰かがそんなことを言ったりして、でもその口調は明るくて
混ぜっ返す声も明るくてみんな楽しそう。

「大貧民、1人足りねー」
「誰かやんない?」

田島くんや泉くんの賑やかな声を聞きながら、
オレは目の前の自分の皿のあらかたなくなってしまったケーキの残骸を名残惜しくかき集めた。
そうしながらぼんやりとさっきから気になっていることをまた、考えた。

阿部くんは、 楽しい、 かな。

ちらりと隣を見たら目が合った。  普通の顔してる。

「あの」
「なに?」
「た、楽しい・・・・・・?」
「は?」
「・・・・・・・・・・・。」
「なんだよ急に」

だって。 クリスマスイブだから。
恋人のいる人はデートしてて。
オレも阿部くんと2人で過ごしたいな、 なんて気持ちも実はちょっとあったんだけど。
成り行きで練習のあと、うちでみんなでパーティになって。
それはそれでオレはすごく嬉しくて。

でも、阿部くんは、どうなんだろう・・・・・・・・・

オレの心の声を読んだかのように阿部くんが笑いながら言った。

「いんじゃね? こーゆーのがオレららしくて」

ホっとした、途端に小さな声が続いて聞こえた。

「でも1つだけ」
「へ?」
「三橋、手がクリームだらけ」

脈絡なくいきなり指摘されてオレは慌てた。
確かに指がべとべとで。   まるで小さな子供みたい、と恥ずかしくなった。

と、阿部くんがオレの右手を掴んで指の先のクリームをぺろりと、舐めた。  それから。

「!!!」
「あま・・・・・・・・・・・」

それはごく自然な動作だったし、一瞬だったから誰も見てなかったと思うけど。
オレは内心で焦ってしまった。
舐められたところが熱い、てのもあるけどそれだけじゃなくて。

阿部くんは指を舐めた後ほんの一瞬、

手のひらに触れた。  唇で。

なにも、付いてなかったのに。

え?  と思った時はもう離れていたってくらい素早かったけど確かに。

「阿部ー」

泉くんが呼ぶのに 「おぅ」 と答えて腰を浮かしながら阿部くんはオレを見た。 

「お願い、延長したんだ」
「へ?」

ワケがわからなくてきょとんとするオレに
ふふ、 と照れたように笑ってくれた阿部くんの顔は。

なぜか少しだけ、 赤かった。











                                                      了

                                                   SSTOPへ






                                                        自分に照れた模様。