こちらの話はどのシリーズでもない2人です。
 H20アフタ5月号を読んで突発的に書きました。
 ネタばれとは言えないような微量なネタばれですが、 微量でも絶対厳禁! な方はご注意くださいませ。

 大丈夫な方はスクロールで
m(__)m

 今後のアフタの展開によっては消すかもです。 (いたたまれなくなったら)



























































     遅かれ早かれ





仏頂面の見本みたいな阿部の顔を見ながら
そりゃ確かにあんまりだよな、 と花井は少なからず同情した。
だって阿部は褒めたのだ。

阿部のセリフはこうだった。

「おまえって細いのに体力あるってか、根性で補ってるとこが偉いよな!」

対する三橋の返答は 「ご、ごめんなさい・・・・」 だった。
それも明らかにビクついていた。

直後にブワっとある種のオーラを噴き出した阿部に、三橋のビクつきはもっとひどくなり
その顔のままそそくさとトンズラしていったのだ。
もっともそれは、ちょうどそのタイミングでモモカンに呼ばれたからだけど、
行き場を失った阿部の感情は別の誰かに向かいそうだ。
そう、例えば自分とか。

嫌な予感はとりあえず追い払いつつ 「多分」 と花井は考えた。

「細い」 という単語が余計だった。
それでなくても阿部は三橋の体重を、新生児の母親かおまえは、と
突っ込みたくなるくらいチェックしているのだ。
三橋がそれを意識してないわけがない。
しかもそのセリフも話の流れで自然に、じゃなくて
練習中の休憩時間にいかにも唐突に発せられた。
三橋の思考が一瞬の間にぐるぐると駆け巡り、巡り過ぎて
おかしな方向に横っ飛びしたのはほぼ間違いあるまい。
その単語さえなかったら、逆に三橋はあからさまに舞い上がったんじゃないだろうか。

花井がそこまで推測したところで阿部がつぶやいた。

「何でああなるんだ・・・・・」

ぼそりと吐き出された声は暗い。
それでなくても同情を感じていた花井は無難な、でも妥当と思える言葉を探した。

「まあほら、三橋だからさ」
「いや違う」

言下に否定された。 だけでなく阿部は鋭い目を向けてきた。
やっぱり向かってきた、と花井は内心で身構えたが
阿部の目の光はそこでふいに、弱まった。

「だって全く同じ言葉をこないだ別の奴が言ってたんだ」
「別の奴?」
「クラスの奴」
「へえ・・・・・・・」
「したらあいつ、嬉しそうに笑ったんだよ」

ああ、 と花井は納得した。 否定は根拠付きのものだったのか。
阿部はそれを見て思うところがあったんだろう。
そしてそれを健気にも実行したはいいけれど、哀れ結果は真逆だったというわけだ。

「大体さ、メールとかにもすぐ返してこねーし」
「・・・・・ふぅん」
「あいつ、オレがメールすっとビビってんじゃねーの?」

妙なところで勘のいい男である。
でもその顔は今はもう怒りというよりは。

「時々わけわかんねーよ、あいつ」
「うんまあそうだな」
「キョドられるとイライラする」
「・・・・・・だろうな」
「なに考えようが勝手だけどさ、ああいう態度ってオレに失礼じゃねえ?」

ぽんぽんと出てくるキツい言葉と表情が、いまひとつ噛み合ってないことを
自覚しているのかいないのか。

「何でオレだとダメなんだ・・・・・・・・・」

ぽろりと、まさしく本音が出たその瞬間、傍らでそれまで黙って聞いていた田島が笑った。
それはもう嬉しげで、かつ全開だった。
田島はその見事な笑顔のまま、爽やかに断言した。

「三橋はさ、そんだけ阿部のことが好きで、特別なんだよな!」


途端に

劇的な変化が阿部の顔に起きた

のを見てしまった花井は全身がむずむずした。 

むずむずの正体はすぐにわかった。 恥ずかしいのだ。

「・・・・・・そうかな」
「そうだよ!」
「・・・・・・・ふーん」

じゃあそれなら何でああいう態度に、等の疑問は阿部の口からは出てこなかった。
表情はすっかり明るくなっている、ばかりかほんのりと赤い。

わけのわからない態度にどんなにイライラしようが失礼だろうが、

(・・・・・・その理由ならいいのかよ!?)
 
と突っ込みたい衝動を花井は堪えた。
要らぬ自覚を促すだけのような気がしたからだけど。


無駄な努力かな  ともどこかで思った。












                                           遅かれ早かれ 了

                                             SSTOPへ





                                                   本気でそう思っとります(イタ)。