オマケ






それで緊張がほぐれるなら

というのは決して嘘ではないけど半分は嘘だ。
なので阿部は内心で少しだけ、面白くない。
もちろん、三橋の嫌がることをする気はさらさらないから迷いはないのだが、
未練はある。

「いい考えだと思ったのに」

漏れたつぶやきに隣で着替えていた三橋がびくりと反応した。

「な、なに が?」
「え? あー、朝の話」
「あ・・・・・・・・」

すぐさま、三橋は思い出したらしい。 頬がぽうっと赤く染まった。 
美味そうだなと見惚れてしまうのは他に誰もいないせいだけとは言えない。

「やっぱダメか?」
「え、・・・・・・うん ちょっと」

三橋はオレのもんだと、学校のみならず全国的に発表できたかもしれないのに、
と先刻から消えない文句は胸の内だけに留めて。

「恥ずかしい?」
「・・・・・・・う、うん」

その頷き方に阿部は違和感を覚えた。
オレも進歩したもんだ、と自画自賛しながら突っ込んだ。

「それだけ?」
「・・・・・・へ」
「他にもあんじゃねーの?」
「う」

基本的に嘘がつけない三橋はこういう時実にわかりやすい。

「何だよ、言えよ」
「・・・・・・・・・・。」
「怒んねーからさ」
「・・・・・・・・あの」
「うん」
「・・・・・・・それ、されると オレ」
「うん」
「・・・・・・・・試合中に へ・・・・・・・」
「へ?」
「・・・・・・・・変な気分に なっちゃう かもって」

思わずにんまりとしかけてから、ふと笑いを引っ込めた。
阿部は少しの間真面目に考えた。

「・・・・・・おまえはそれはないと思うけど」

正直な本音だった。 三橋に限ってそれはないだろう。
何しろ野球バカだから。 あまり人のことは言えないけれど。

「・・・・・・・そうか、な」
「うん、多分」
「・・・・・でも うっかり お、思い出したり しそう」

今度は心からにんまりした。
この美味しいチャンスを逃すテはもちろんないので。

「なにを?」
「あっ」
「こういうの?」

素早く頬をぺろりと嘗めながら、服の下に手を忍ばせる。

「あ、あ、あ、べくん!」
「なに?」
「こここ ここ、」
「にわとり?」
「ち、ちが、 ここ、部室・・・・・」

ちぇっと、阿部は手を離した。 なだれ込めなかった。 
少しくらいいーじゃんと恨めしく思う反面
本格的に仕掛けたら最後、途中で止まる自信もない以上無理強いする気はない。
しかしここでももちろん、転んだままでは済まさないのだ。

「じゃあ今日オレんち来いよ」
「え」
「オレがおまえんちに行ってもいいけど」
「う」
「試合中がダメってんなら家でさせて?」
「う・・・・・・・」

全然理由になってない! と突っ込む第三者はどなたもいないのである。 しめしめ。

「いいだろ? それともそれもダメ?」

それも、の部分をわざとらしく強調したのは三橋の性格につけ込もうという魂胆だ。
色よい返事以外は聞きたくない、と言外に匂わせながら阿部はむずむずする。

「いい、よ・・・・・・」

こっくりと、首が縦に振られるのを見るや心が逸った。 早く帰りたい。 早く早く。
男にしては柔らかい、熟れた林檎みたいなその頬に存分に触ったり嘗めたり
他にもあれやこれやしたくて仕方ない。

と不埒なむずむずの固まりと化した己を自覚して、阿部は今さら素直に認めた。
三橋はともかく、自分はやっぱりヤバいかもしれない。
余計な思惑付きだから尚更だ。
本人にそれを言う気は意地でもないが、代わりに心でつぶやいた。

泉、おまえの言ったことは正しい。












                                             オマケ 了

                                             SSTOPへ





                                                 その前に外見でまずダメざますよ。